現代のKKDは、勘・経験・データ
前回は「Behavior-based Micro-segmentation for Data-Informed Decision Making(BM4DIDM)」の前半部分、「行動ベースのマイクロセグメンテーション」について説明しました。今回は、後半部分「データインフォームドな判断のため」という部分について解説します。
セグメンテーションは手段に過ぎない
マイクロであろうとなかろうと、セグメントに分けるという行為は、顧客を理解する、あるいは、理解した上でその顧客に何らかの働きかけをすることを目的としています。
セグメントに分けて満足しておしまい、ということはあり得ません。
その目的を「データインフォームドな判断」と置きましょう、というのが、掲題の「BM for DIDM (BM4DIDM)」のコンセプトです。
データインフォームド、つまり、データ“も”用いて論理的に考える姿勢を持って、合理的に判断することを目的に据えると、セグメント分けのやり方にも工夫やコツが求められます。
細かく分ければ良いというものでもない
まず、我々が行いたいのが「判断」であることに注目しましょう。つまり、人間が理解し、それによって何かを考えることを前提にしています。そうなると、「とにかく細かく分けたい」というのは、誤ったアプローチであるということになります。
行動データが蓄積されればされるほど、多種多様かつ細分化されたセグメントをつくることができます。
しかし、非常に細かく分けた結果、ひとりひとりの顧客への理解が深まったとしても、同じような人たちが少なくなりすぎてしまい、他の人たちへの展開ができないようでは困ります。せっかく「“嘘”が混じらない」情報でセグメント分けをしたのに、そこで得られた再現可能な知見を適用する対象者がいなくなってしまっては、本末転倒です。
ひとりひとりの顧客をより詳しく理解したい、という探究心は素晴らしいことですが、行いたい判断に寄与しないようであれば、それは「やりすぎ」ということになります。
データだけでは分からないこともある
データインフォームドは「データ“だけ”に基づく」ことに対して批判的です。(それは、Data-Drivenと呼ばれるべきでしょう)
データ“も”用いることを推奨しています。つまり、KKD=勘・経験・度胸をアップデートして、勘・経験・データにするのです。
行動データに基づくマイクロセグメンテーションの結果、「この人はサラダを買っている」「この人はガテン飯を買っている」などの情報があっても、その人が「なぜ買っているのか」は、類推するしかありません。
そこを考えるのは、人間の役目です。どういう思考回路で、どういう意思決定がなされて、その行動に至ったのか。そうした背景情報を類推するのは、現場で培われた勘・経験の為せる業です。
マクロセグメントを作るに際しては、「勘・経験を最大限にサポートすること」を意識する必要があります。(なお、そうした観点で作られたセグメントは、現場経験が少なく勘働きが弱い人にとっても、深く考えるための材料になります。)
同じ人が、複数のセグメントに属していても良い
行動ベースで顧客(あるいは対象者)を分類する場合には、一人の顧客が複数のセグメントに同時に属することを許容します。むしろ、推奨していると言っても良いでしょう。
人間は、必ずしも一つの人格・一つの行動指針で動くわけではありません。その社会的役割に応じて、行動ルールが異なっても何の不思議もないのです。そのため、さまざまな役割に応じて、行動傾向に変化が出ることを踏まえ、複数のセグメントに属することもあると捉えます。
例えば、平日の昼間は会社近くのコンビニでジャンクなものを食べている人が、週末には家族と一緒にショッピングモールで買い物をしているというケースは、それぞれ、別のセグメントで捉えられてしかるべきでしょう。
あるいは、普段は都市部で働いている人が、定期的に国内旅行をしている場合には、これもまた行動傾向が異なります。もっと言えば、出張時の行動と、プライベートの旅行時の行動は、目的地が同じであったとしても違いがあるかもしれません。
こうしたことを踏まえて「特定の行動をしている人」をセグメントとして定義する際に、同じ人が、複数のセグメントに同時に属することが多くあります。
その後の行動で、さらに細分化しても良い
行動ベースのマイクロセグメンテーションは、アップデートが可能です。DIDMの思想に基づいて、何らかの判断を行い、その結果が「打ち手・施策」として顧客に対して提案されたとします。その提案を受けたかどうか、つまり、クーポンを受け取ったか、あるいは、そのクーポンを利用したのか、という反応を用いて、施策対象のセグメントを細分化することができます。
クーポンを利用した場合にも、たとえば、普段買わないような大きな買い物の割引に使ったのか、普段使いの商品の割引に用いたのかなどという観点で分解することもできるでしょう。
一方で、これを繰り返すと、本稿の前半で申し上げたように「細かくなりすぎる」リスクがあります。
それを踏まえて、「打ち手・施策への反応具合」という観点だけで、改めてセグメントを切り直すということができます。それにより、細かくなりすぎることを避けると同時に、新たなセグメント情報を付与するということができます。
これもアンケートなどのような「意図的にアクションさせる」ことが必要のない、行動ベースのマイクロセグメンテーションであることの利点です。
切り口同士を柔軟に組み合わせる
こうして複数のセグメントに所属させながら、また、その情報にアップデートも加えていくことで、ある人を多面的・多層的に理解することが可能になります。(まさに、これが「ゾクセイ」の考え方です。)
こうしたセグメント分解は、つまり、情報の切り口の設定です。その人が、多様な切り口で見たときに、どういう色合いに染まっているのかを定義しているわけです。
これらの複数のセグメント(つまりゾクセイ)を組み合わせると、立体的なマイクロセグメントを生み出すことができます。
冒頭に言ったような「細かすぎるセグメントは良くない」と相反するように感じるかもしれませんが、それは「セグメントを固定的に設定する場合には“禁じ手”」だと考えていただくと良いでしょう。
動的に複数の切り口を組み合わせる場合には、細かくなりすぎても構いません。なぜならば、いつでも、一つ手前の段階に戻ることが可能だからです。
なお、こうした考え方に基づいて生成されたセグメント情報は、必ずしも人間に限らず、生成AI(LLM)に対して情報を与える場合にも有効であることは付記しておきます。(ただし、この解説は別の機会に譲ります。)
行動ベースで顧客を理解しよう
このように、BM4DIDMは、データインフォームドな判断をするために、行動データを基軸にして顧客(もしくは対象者、もしくは対象物)をセグメント分類する手法です。
あくまでも、ビジネス上、判断する意味のある事柄に「直接的につながる・貢献する」ことを目指しています。
反対に言えば、実ビジネスにつながらない、あるいは、判断につながらないようなセグメント分解にならないように細心の注意を払うことが重要です。
BM4DIDMは、データ分析のためのデータ分析にならないように、判断可能な情報を作り上げることに注目する思想であると理解しておくと良いでしょう。







