なぜこの店で買ってしまうのか -ショッピングの科学-(パコ・アンダーヒル|ハヤカワノンフィクション文庫)/graffeの本棚

AUTHOR :   ギックス

本記事は、株式会社ギックスの運営していた分析情報サイト graffe/グラーフ より移設されました(2019/7/1)

「勘」と「経験」には”理由”がある

なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
本日は、2001年に初版がでた、もはや古典ともいうべき、パコ・アンダーヒルの「なぜこの店で買ってしまうのか」をご紹介します。尚、本書は、日本国内で25万部売れており、原著である「WHY WE BUY」は、米国で発売されて1年間で160万部のベストセラーとなった名著です。

パコ・アンダーヒルって誰?

パコ・アンダーヒルは、「エンバイロセル」というコンサルティング企業の創業者・CEOです。
コトバンクより経歴を引用します。

1977年ニューヨーク市立大学講師を経て、’82年コンサルティング会社・エンバイロセルを創業、CEO(最高経営責任者)を務める。ニューヨークを拠点に世界中の小売店や銀行を調査し、年間5万〜7万人の顧客の行動を追跡。マクドナルド、スターバックス、ブルーミングデールなど多数のクライアントを持ち、そのノウハウは「ニューヨーカー」「スミソニアン・マガジン」など多くのメディアに注目される。’99年ビジネス書「なぜこの店で買ってしまうのか」を刊行、全米で160万部のベストセラーとなり、25を超える言語に翻訳された。また、「アメリカン・デモグラフィックス」「アドウィーク」に寄稿し、各地で講演活動を行う。
出所:コトバンク

エンバイロセルとは?

エンバイロセルは「徹底した顧客行動観察に基づく分析手法」でリアル店舗への業務改善コンサルティングを行う企業です。エンバイロセル・ジャパンのウェブサイトより引用します。

米国エンバイロセルは、CEOであるパコ・アンダーヒルが自ら考え出した「徹底した顧客行動観察に基づく分析手法」を小売業に活かすため、1979年に創設されました。

1989年に現在の社名エンバイロセルへ変更。エンバイロセルとは、環境を示す「エンバイロメント」と売るを示す「セル」の2語からくる造語で、「買い物客」と「小売店」の双方を含めた「ショッピング環境」を意味しています。

ヨーロッパ、ブラジルにも海外拠点を持ち、小売業、フードサービス、金融からメーカー、ネット企業にいたるまで、世界の企業の「店舗づくり」や「商品の売場作り」で大きな成果をあげています。

出所:エンバイロセルジャパン|米国エンバイロセル

ショッピングを「科学」する

さて、そんなパコ・アンダーヒル氏の書いた本書は、「徹底的な行動分析」に基づいて、店舗における顧客の動きを理解しようとします。小売業従事者でない方も、いち消費者として通読する価値のある良書です。
本書で挙げられる「顧客行動の理由」について、具体的な例を幾つか挙げていきます。非常に興味深いです。

なぜ、右手で取りやすいように商品を並べるのか?

  • 手は2本しかないが、消費者が手ぶら=2本ともあいている状況で来店することは「ほぼ、ない」
  • 人間の大半は右利き。そうすると、荷物が重いなどの特別な事情がなければ「左手で荷物を持ち、右手を自由にする」
  • よって、「自由な右手で物を取らせる」ことを前提に店をつくる

そうすると、雨の降る日に、みんなが傘を持ってたらどうするの?と考えたくなりますね。発想が拡がります。

どこで文字を読ませる?

  • 入口付近の看板・ポスターは「数語」に留める。1秒半で読めるのはそれくらい。
  • トイレに向かう途中に何かを書くのは無駄。だってみんな他のことで頭がいっぱいだから。逆にトイレからの帰り道に案内を置くのは効果的。
  • カウンターのメニューは「注文を伝えた後の、調理待ち時間(マクドナルドで約1分40秒)」に、75%の客が見つめている

ふむふむ、なるほど。そうすると、以前話題になった、日本マクドナルドの「カウンターメニューの廃止」は、果たしてどういう戦略だったのだろうか?と考えてしまいますよね。

高齢化に対応した店づくりとは?

  • 高齢化に伴い、店舗改革が必要になる。まずは「文字を大きく」だ。
  • 続いては、色彩のコントラストを鮮やかにすること。視力が衰えると、全体的に黄色がかって見えるので、微妙な色合いが判別しにくくなる。
  • そして、店内をもっと明るく。50歳の人は、20歳の人の3/4しか、網膜で光を受け取れない。
  • 高齢者は「体をかがめる」ことがキツい。体を曲げなくてよい高さに商品を配置すべき。(※特にアメリカなので平均身長が高いことも加味すべきだが)
  • ATMのボタンの大きさや、商品のボタンをマジックテープに置き換える、などの商品・サービスそのものの配慮も求められる。

日本は、少子高齢化が進んでいます。そんな中で、現時点で購買力が非常に強い「団塊の世代」に向けたサービス展開を考える場合には、彼らの高齢化に合わせた見せ場づくりがますます求められるでしょう。

「勘」「経験」「嗅覚」を検証しろ!

上記は、小売の現場の皆さんとお話しすると「そんなことは、わざわざ科学しなくても経験則でやっていたことだ」と言われてしまいそうな内容です。
しかし、重要なのは「”経験則”を”検証する”」ということです。時折「高い金を払って分析したのに、当たり前のことしか分からなかった」というボヤきを耳にします。支払った”高い金”の度合いにもよりますが、「思っていた通りであった、と検証されたこと」に、価値がある、ということを理解する必要があります。実際のビジネスで培った感覚を、しっかりとデータで検証していくことにより「正しいものは、継続的に取り組む」「間違っているもの・時代遅れになっているものは、改める」という意思決定ができるのです。
これを、graffe.jpでは、「ビジネス感覚のある人にとっての”データによる裏付け”は、鬼に金棒だ」と表現しています。
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(関連記事:データサイエンティストは「雇う」のではなく、「育てる」べきではないのか
本書、「なぜこの店で買ってしまうのか」は、具体的な事例が沢山のっています。これを読みながら、自社の場合はどうなのか、もっとこういう打ち手が考えられるのではないか、などと考えてみることが「金棒を手に入れる最初の一歩」ではないかと思います。未読の方は、ぜひご一読を。
なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
なぜこの店で買ってしまうのか ショッピングの科学 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

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