VRM(Vendor Relationship Management):果たしてCRMの”次”なのか?|基礎から学ぶマーケ用語

AUTHOR :  田中 耕比古

VRMは、CRMを補完する”夢の仕組み”(=当面は”幻”かなぁ・・・)

本日は、VRM(Vendor Relationship Management)を解説します。また、この用語を理解するために「CRM」という概念の理解が必要ですので、そちらについてもある程度触れながら説明を勧めたいと思います。

VRM=顧客(消費者)が”ベンダー”を管理する

VRMというのは「インテンション・エコノミー:顧客が支配する経済」の著者である、ドク・サールズ氏が発案した言葉です。インテンション・エコノミーに関する解説記事で、僕はこのように説明しました。

そこで出てくるのが「VRM:Vendor Releationship Management」という考え方です。この仕組みについては別の機会に解説しますが、シンプルにいうと「売り手が顧客(Customer)との関係性を管理する”CRM”=Customer Relationship Management」の反対概念として、「買い手が売り手(Vendor)との関係性を管理する」というものになります。

このVRMによって、顧客が「自分のどういう情報を、どの企業に渡すか」をコントロールすることが可能となります。そして、企業側は、その受け取った情報から「何を提案してほしいと思っているか?=どういうRFPが提示されているか」を考えて、提案してくる、という流れが実現されるわけですね。

要するに従来のCRMと、VRMでは「主語=行動主体」が違うわけですね。図にまとめてみます。

VRM.png

この主体の違いについて、従来の「CRMで関心を喚起する”アテンション”の経済」から、今後は「VRMで意思を表明する”インテンション”の経済」へと変化するべきだ、というのが上述したインテンション・エコノミーの基本的な考え方です。先ほどの関連記事から、さらに引用します。

一言でいえば「売り手が、買い手の興味・関心を惹くために努力して、AIDMAプロセスの駒を進めようとする世界」が従来のアテンション・エコノミー=関心の経済の世界で、「買い手がRFP(Request for Proposal)を出してくる世界」がインテンション・エコノミー=意思の経済の世界だ、ということになりますね。

VRMの目的

理解を深めるために、「インテンション・エコノミー:顧客が支配する経済」から、VRMの目的についての記述を引用します。7つあります。

  1. 個人が組織とのリレーションを管理するためのツールを提供する
  2. 個人を自身のデータ収集の中心にする
  3. 個人にデータを選択的にシェアできる権限を与える
  4. 個人に自分のデータを、他人がどのようにいつまで使うかをコントロールできる権限を与える
  5. 個人にサービス条件を自分のやり方で決定できる能力を与える
  6. 個人にオープンな市場で需要を主張する手段を提供する
  7. リレーション管理のツールをオープンな標準、オープンなAPI、オープンなコードに基づいたものにする

出所:書籍「インテンション・エコノミー:顧客が支配する経済

個人が主体となって自分の情報を管理し、企業に対して要求という形でその情報を受け渡すことができる、ということを明確に定義しようとしていますね。

さらに、これらの目的を実現するための「VRMツール」の目標として挙げられているものも引用します。

  • ユーザー自身のデータの収集、統合、管理
  • 個人アイデンティティの管理
  • 契約の自由の枠組みにおけるユーザー自身の条件ポリシー嗜好の設定
  • 特定企業からの独立性を維持するために、主に個人向けに開発された信頼フレームワーク信頼ネットワークの構築と参画
  • セルフ自己トラッキング、セルフ自己ハッキング、パーソナル・インフォマティクス
  • コミュニケーションの履歴保持
  • 検索のパーソナライズと機能改善
  • 需要の表現(パーソナルRFPなど)
  • 任意のイベントにアクションを対応づけられ、クライアントサーバー(親牛ー仔牛)の枠組みの外で機能するプログラミングルール
  • オープンで置換可能なシステム上のブログマイクロブログ
  • ユーザー自身のサーバーの自由な所有と管理
  • CRMシステムとの連携
  • 企業やサードパーティではなく個人の代理人であるフォースパーティとして機能する新規企業の構築(あるいは既存事業を変革)

出所:書籍「インテンション・エコノミー:顧客が支配する経済

先述した「個人が主体となって情報を企業に受け渡す」ために、どのような要件があるかを整理した、ということですね。尚、著者のドク・サールズ氏は、徹底的な「オープンソース派」の方なので、特定企業の枠組みから逃れることに対する熱い想いがあるようで、端々からその熱量が伝わってきますね。(笑

VRMで、何が良くなるのか

では、VRMによって、何が、どのように良くなるというのでしょうか。

基本的には「企業の都合で、何かが決まる」ということを排除しよう、ということがこの思想の根源ですので、「望んでいるもの(に最も近いもの)を提供できる企業を、消費者が選ぶことができる」ということが目指すゴールとなります。

VRMとは、複数の企業に対して「RFP(Request for proposal)=自分が何を求めているのかという”要求事項”」を簡単に共有することができる仕組みですので、「自分が何を求めているか」さえ明らかにすれば、各企業が、「自社なら、ここまで対応できますよ」と教えてくれる世界が実現される、ということですね。

確かに、これは素晴らしい世界です。(ちなみに、CRMが不要になるか?と言うと、そんなことはありません。CRMによって、顧客に自社のことをしっかり知ってもらわないと、そもそもVRMで情報を提供する対象として選択してもらえなくなるでしょうからね。アテンションとインテンションは、どちらか片方でOKということではないわけです。)

実現のための最大のハードルは「利用者のリテラシー」

このVRM(および、インテンション・エコノミー)は、まだ、実現には至っていません。多くのハードルは、技術的なものですが、それは、いずれ時が解決していくものだと思います。

ただ、僕自身の見解としては、このVRM実現に向けた「最大のハードル」は、利用者=消費者のリテラシー(と振る舞い)ではないかと思うのです。

「VRMで、何を伝えるか(What)」を考えること、そして「VRMで、どう情報を操作するか(How)」という部分で、消費者自身に高いリテラシーが求められるのは間違いありません。(もちろん、VRMは、そこをある程度自動的に処理するような仕組みを目指すのでしょうが、現実的には”人間の判断”の無い仕組みは使い物にならないだろうと僕は思いますね)

そもそも、CRMもVRMも「仕組みが解決してくれる」のはごく一部です。結局のところ、CRMシステムの「アウトプット」をうまく活用して「成果」を導き出すのは企業が努力すべきことであるのと同様に、VRMシステムの「アウトプット」をうまく活用して「成果」を得るためには、消費者も努力する必要があるのです。

関連記事で書きましたが、ひょっとすると、CRMは、アウトプットを解釈して施策に落とし込む「後工程」が課題だったのに対して、VRMは、インプット情報をしっかりと作りこむ「前工程」に課題があるのではないか、という気がします。

このように、VRM=消費者がベンダーとの関係性を管理する仕組みの構築によって、インテンション・エコノミー(意思の経済)が実現するのは非常に喜ばしいことだと思うものの、実現に向けてのストーリーは、現時点では、まだまだ描き切れていないように思えます。テクノロジーの進化とともに、人が進化することが求められているのかもしれませんね。

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