戦コンスキルは起業に役立つか?~プロマネ編~(3):戦略立案プロジェクトが始まるまで 後編

AUTHOR :  網野 知博

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網野 知博
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コンサルティングファーム内でも磨かれる事業会社スキル

今回は戦略立案のプロジェクトが始まる最初の部分、「クライアントから難しい経営や事業の悩みや相談を受けて」〜「受注」に至るまでの一連の流れの中で後半の部分、「提案」を準備してから「受注」するまでに関して説明して行きたいと思います。特に今回はコンサルティングファームの中の事情なども踏まえて説明していきます。今回も前回に引き続き多少裏話も暴露しますが、これらの経験をお読みいただくと、コンサルタントは机上の空論の理想を紙に書いているだけのビジネスセンスのない人ではなく、実はプロジェクトマネージャまで経験すると、それなりに事業会社スキルを磨いてきているのだという現実を知って頂けると思います。

前回のおさらいになりますが、「クライアントから難しい経営や事業の悩みや相談を受けて」〜「受注」に至るまでの一連の流れは図のようになります。

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提案に向けた最初の壁

提案準備に関しては、第5回の「提案からプロジェクト獲得に向けて」で多少触れていくのと、また「コンサルタントの提案書に学ぶ 営業思考の 7 Step」にてコンサルタントの提案書の書き方を説明しておりますので、そちらをご参考頂けると幸いです。

提案書が書き上がり、最初の壁は身内にあります。私が所属していたコンサルティングファームは相当大きな組織であったために、好き勝手に提案してプロジェクトを取ることが禁じられていました。「コンサルティングファーム」も事業会社であるため、当然ながら数字を追わなくてはなりません。すると、戦略コンサルティングのようなデリバリーに苦労して、レバレッジも効かず、かつ受注金額も小さいタイプの仕事はそれこそ会社側も戦略的に利用したいわけです。

簡単にいえば、大事なクライアントである大口顧客に対してペネトレーションするような役割の仕事であるか、プロジェクトの検討テーマがいづれは大きなビジネストランスフォーメーションにつながるとか、BPRにつながるとか、アウトソーシングにつながるとか、大規模なシステムインテグレーションにつながるなどの大義名分がないと、そもそも提案することも許してはもらえません。つまり、あまり重要ではないクライアントの、テーマは面白いが一発モノで終わってしまい継続がないような戦略立案プロジェクトに関しては提案することも許されません。そこで、社内の承認を通すための戦略や戦術も必要になってきます。言い換えれば、自分のユニットを管理する大ボスは投資家のようなものです。彼らの心理にたてば、限られたリソースの中で収益を最大化させたいわけで、すると彼から見たら意味のある案件に投資していきたいと思うのは必然です。その前提に立つと、私自身でこのプロジェクトがいかに会社に取って意味のあるプロジェクトなのかを雄弁に語り、重要性を理解してもらい、リソースを獲得してこなければなりません。提案して、クライアントからも合意を得て受注をしてデリバリーする事が仕事なのですが、それを始めるために、社内を説得して自分自身や部下たちのリソースを使うことに関して許可を得なければなりません。それをこなせないと、上からは金は稼げるがあまりワクワクしない仕事を与えられて、その仕事のプロジェクトをデリバリーするだけになるので、私が定義するクライアントの相談から始まる広義のプロジェクトマネジメントにはなりません。プロジェクトをデリバリーするだけの狭義な意味のPMとしてのプロジェクトマネジメントになってしまいます。当然ながらプロジェクトに対する楽しさもなくなりますし、自分の成長も途絶えますし、ふんだり蹴ったりです。笑

それを避けて、自分が心からやりたいプロジェクトをやるためには、とても論理的で頭も非常に鋭い強敵達(ユニットの大ボスや上級のパートナー連中)に戦略的にも戦術的にも立ちまわっていかなくてはなりません。「なぜこのクライアントにペネトレーションすべきかのか、このクライアントと付き合うと何が良いのか、中期的にはどのような展開が見込まれるのか、そのため今回はこのテーマから入り、これを足がかりにどうやって広げるのか」と言うことを作文したり、また自分の味方をつけてその人経由で主張してもらったり、あの手この手で承認を勝ち取ります。

大きな世界を作文することの意味

ただ、これらは決して意味のない社内プロセスではないと感じています。実は、社内承認を通すために作文するのですが、自分にとっても、クライアントにとっても良いプロセスであったと今更ながら感じています。つまり、何かのテーマで1回だけ戦略立案だけをして、「はい、さよなら」ではクライアントにとってもそこまで効果はでないのです。では、作文とはいえ、会社が望むように、クライアントに自分たちを沢山使い続けてもらうにはどうするか。それに見合う成果を出し、クライアントにどんどん成長していって頂かないと行けません。そのくらいの飛躍的な成長や成功を見出すにはどのような戦略をたてて、何を実行していく必要があるのか。我々が仕事を頂き続けるには、クライアントに成功して成長してもらい、そして更に多くのコンサルタントを雇い続けてもらわないと行けないわけです。そのためにも、大きな視点で考え、クライアントに取って意味のある規模の成功を収めて、Win-Winの関係を築く必要があります。クライアントインタレストファーストは大前提ですが、逆説的でもあるのですが、会社の承認を得るためにも大きな世界を描き成功に導かないと行けないですし、自分が心からやりたいと思う仕事を全うするためにも、大きな世界を描き成功に導かないと行けないのです。クライアント、会社、自分のwin-win-winであるトリプルウィンの実現を目指すことになります。

プロジェクトへのメンバーアサイン

社内承認も得て、そしてメンバーアサインが始まります。受注後に人を集めることもありますが、受注の確度が高い場合には、正式な受注前に主要メンバーをアサインしておく必要があります。難しいテーマの時にはとにかく人が勝負になります。私が所属していた会社では、プロジェクトに入る側にもプロジェクトを選ぶ権利があったので、いわば擬似的な採用活動になるわけです。こちらはなるべく優秀で評判の良いスタッフに入ってもらいたい。そのためには、プロジェクトの魅力なども伝えながら、候補者を選びつつ、あちらには選ばれるように仕向けないと行けない。私がいた会社にはアサイン会議という公明正大な仕組みがあったのですが、勝負はその前のネゴシエーションで大方決まってしまうという感じでした。本音と建前、就職協定と同じ感じですね。笑

一般的に上司も部下も選べないかわりに、「人事」より人があてがわれる事業会社とは違って、自分で選択できるが、優秀なメンバーは自分で集めてこないといけないと言う感じです。集めきれないと、言い方は悪いですが、社内的にあまり評判が良いわけではない多少余ったメンバーをアサインすることになりますし、更に悪いことに、人が全く余っていない時はアサインすらできないので、プロジェクトが始められないと言う事態になりえます。私は「厳しい」と言う評判が付いているマネージャであったので万人受けするわけではありません。そのため「厳しいがここで頑張れば飛躍的に成長できる」と言う触れ込みで、ガッツがある成長意欲の塊のようなメンバーをアサインしていくことになるのですが、それが続くと「武闘派」などというレッテルをはられて、更に間口が狭くなるというデメリットがありました。笑

また、同時にクライアント側にもメンバーをアサインして頂かないと行けません。相談して頂いている相手は意思決定を頂く事業責任者の場合が多いですので、プロジェクト中にカウンターとなり、日々やりとりをする優秀なメンバーを立てて頂くことになります。この方の優秀さによってもプロジェクトの成否は大きく左右されますので、とにかく頭がよくチャレンジングなことに取り組み、成長と出世の意欲がある方をアサイン頂けるよう依頼しなければなりません。ですが、そういった方はエースで活躍しているので実業から話してプロジェクトにアサイン頂くことは困難を極めます。しかもクライアントが相手なので、無理を通すわけにも行きませんから、理想と現実の中で動くという形になります。

最後の大仕事、法務とのやりとり

社内承認を得て、メンバーもほぼ決め、提案し、内示を得て、晴れて受注となる際に発生する最後の山が契約書の文面の合意です。一般的にコンサルティングプロジェクトで契約時にモメる条項が2つあります。

  1. 瑕疵担保の期間、上限金額
  2. 著作権の帰属

瑕疵担保は期間、及び上限金額の設定で交渉が入ります。特に上限金額はコンサルティング・ファーム側は契約金額以上は認められないのが前提ですし、クライアント側は2倍や、青天井を求めることもよくあります。著作権はその帰属する権利をどちらが有するかです。契約条項に関して、外資の場合は規定ルールから外れるとグローバル承認が待っており、とても手間と時間がかかる作業になります。そのため、日本側で対応可能な範囲内での変更に留め、あとはクライアント側の法務に折れて頂く必要があります。今までの経験上、法務に所属される方はとても頭がよく、かつ論客な方が多いのですが、多少やっかいなことに契約条項に関しては「戦い」と思い、内容で折れることは敗北と感じる方もいらっしゃいます。そのため契約締結までに非常に時間がかかります。契約締結までは待っていられないので、合意書をもとにプロジェクトをスタートさせますが、プロジェクト終盤になっても本契約が締結されていないことも多々あります。

BPRやアウトソーシング、システムインテグレーションなどの数億円のビッグディールの契約なら瑕疵担保も上限金額も非常に大事ですが、短期の戦略コンサルティングであればそこまで瑕疵担保にこだわる必要もありません。ですので、クライアントのカウンターに協力を頂きながら、このプロジェクトだけ特例という感じで瑕疵担保の上限金額を契約額までで結ぶなどのネゴシエーションを行う必要があります。ここの手間を惜しんで法務対法務で激論をかわさせるともの凄く長引くことがあるので、この辺はプロジェクトを進めるメンバーが協力をして、周辺からネゴシエーションして法務の方にご理解を頂くことになります。

意外と学べる事業経験

社内承認、メンバーアサイン、法務とのやりとりなど、コンサルタントと言えども比較的泥臭い業務を行っていることをご理解頂けたのではないでしょうか。コンサルタントはプロジェクトのデリバリーだけの経験ではなく、プロジェクトをマネジメントする立場になると、いわば個人商店やスタートアップ企業のようなもので、各種ステークホルダーに対して交渉を行い、承認や合意を得ていく作業が発生します。クライアントの満足を得るだけではなく、社内の上司や組織の満足を得ていかなくては行けないし、一緒に働いてくれるスタッフの満足を得なくては行けないですし、なによりも自分が楽しくやりがいを持ってハードワークをこなすために、誰よりも自分が満足する仕事でなくてはならないのです。

私個人の経験で言えば、戦略コンサルタントとして得た仮説立案力や学んだ経営戦略のフレームワークなどもさることながら、実務という点で、これら一連の流れを何度も経験してきたことは起業してから非常に役に立っております。

次回はプロジェクトマネジメントの番外編ということで、仮説立案力に関して説明をしていきます。番外編とは言え、全ては仮説から始まります。本日記載した社内承認を得る活動も、あの上司を口説くにはこのようなシナリオが良いのではないか、と言う仮説から始まります。メンバーのアサインも、彼を口説いて自分のプロジェクトに来てもらうには、このような口説き方が良いのではないか、と言う仮説から始まります。人間が何かを論理的に考えて行動するときは、その時の最善の「仮の答え」をベースに判断することになるので、全ての行動が仮説から始まると言っても過言ではありません。

第1回:プロジェクトマネジメントから得た学び
第2回:戦略立案プロジェクトの始まり 前編
第3回:戦略立案プロジェクトが始まるまで 後編 ⇒今回
第4回:プロジェクトマネジメントを支える仮説力
第5回:提案からプロジェクト獲得に向けて
第6回:プロジェクトの立上り
第7回:プロジェクト中盤
第8回:プロジェクト終盤(報告前)
第9回:プロジェクト最終報告

本連載の記事一覧はコチラから

 

 

 

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