第8章「マーケティング近視眼」:マーケティングとは経営そのものである|ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文/ギックスの本棚

AUTHOR :  田中 耕比古

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田中 耕比古
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”予言”の内容よりも大事なのは「考え方」

ハーバード・ビジネス・レビューBEST10論文―世界の経営者が愛読する

本日は、1960年度マッキンゼー受賞論文である「マーケティング近視眼(1960年)|ページ数:36p」を取り上げます。

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論文の骨子

マーケティング近視眼、と銘打たれたこの論文は、事業の定義を誤った(狭く捉えた)「戦略的近視眼」と、それに伴う生産改革こそが正義という「マーケティング軽視」が企業の衰退を招く、と述べます。以下に、本論文の超要約を記載しておきます。

超要約:マーケティング近視眼
  • 成長・衰退は、業界ではなく、個々の企業の問題
  • 企業の成長は、経営者が責任を負わねばならない
  • 成長機会の有無ではなく、経営的な想像力と大胆さで、産業をどう捉えるかが重要(例:鉄道産業は「輸送産業」と捉えるべき)
  • 変化することを理解せよ。肝に銘じるべきは右の3つ。「人口は増加し続けない」「代替品は必ず現れる」「経験曲線だけが正義ではない」
  • 特に、大量生産→コスト低下→利益増大という流れを過信すると、マーケティングがおろそかになるのが危険
  • マーケティングは、製造の後に続く努力ではなく、マーケティングを満たすために製造があると知るべし
  • 経営者自身が”創造的破壊”に踏み切らないと、経営は、製品やサービスを生産することに向かい、顧客に満足を与える方向にいかない
  • R&Dは重要だが、それだけで競争力は生み出さない。市場を向くべき
  • 経営の本質は、生産の効率化と低コストではなく、中長期的なマーケティング・マインドとそれを実現するためのリーダーシップである

経営者は、経営に責任を負う存在

本論文は、非常に刺激的な指摘から始まります。

成長が脅かされたり、鈍ったり、止まってしまったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである。失敗の原因は経営者にある。つまるところ、席になる経営者とは、重要な目的と方針に対応できる経営者である。

つまり、成長できないのは、外的要因ではなく、内的要因、それも経営者の問題である、と断じているわけですね。そして、論文の最後は、このように締めくくられます。

企業は、製品やサービスを生み出すためでなく、顧客の購買意欲を促し、その企業と取引したいと思わせるような活動をするためにある、と考えなければならないのである。またCEOはこうした環境、こうした態度、こうした願望をつくり出すために大きな責任を負っている。経営姿勢、進むべき方向、目標を設定しなければならない。そのためにはCEO自身がどこへ進みたいのかを正確にわかっていなければならないし、企業全体が進むべき目標を十分に理解するよう、努めなければならない。これこそがリーダーシップの第一条件である。自分の進む目標が分からなければ、未知は無数にあるために迷路に入り込んでしまう。

どの道でも構わないのであれば、CEOはカバンをしまって魚釣りにでも出かければよい。もし、企業が進むべき目標を知らず、それに無頓着ならば、わざわざ教えてやる必要もない。やがてだれもが、その誤りに気づくはずである。

企業の存在目的は、研究開発でもなく、販売でもなく、マーケティングである、ということですね。

しかし、1960年にこの結論が導き出されているにもかかわらず、50年以上の時が流れた現在も、この考えが浸透しているとは言いがたいです。「やがてだれもが、その誤りに気づくはずである」という本論文の予測は、大変残念ながら「55年では足りなかった」ということです。

業界の衰退予測は「ご参考」。大事なのは考え方。

本論文では、1960年時点で、すでに衰退していた産業として、鉄道業界と映画業界が挙げられます。そして、1960年以降に衰退が考えられる産業として、ドライクリーニング産業や電力事業、石油産業などが挙げられます。

しかし、55年の時が流れても、燃料電池は勃興せず、石油産業も電力産業も、まだまだ世界の中枢を占めています。ドライクリーニングも普通に世の中にありますし、鉄道業界や映画業界も、まだ死に絶えてはいません。(映画は、デジタル化+マルチメディア化+マルチデバイス化の波で、むしろ少し盛り返してきたかもしれませんね。)

ただ、だからといって、本論文の記述内容が薄れることはないでしょう。大事なのは、予言の内容ではなく、なぜ、そう考えるか?なのです。

消費者調査は、なんのためにあるべきか?

たとえば、消費者調査に関するこの記述は「消費者調査」でググったら、一番上に大きいフォントで表示して欲しいセンテンスです。

大手メーカーは(中略)長い間、消費者のウォンツとかけ離れた車しか作れなかった(中略)。消費者の嗜好の変化を調査が指摘できなかったのはなぜだろうか。実際に小型車が売れるまで気づかなかったのである。事実が起こる前に今後何が起こるかを発見することこそ、消費者調査の目的ではないのか。

答えはこうだ。自動車メーカーは消費者のウォンツなど調査していなかったのである。前もって自動車メーカーが売り出そうと決めておいた車のうち、どれを消費者が好むのかを調査していたにすぎない。自動車メーカーは製品中心主義であって、顧客中心主義ではなかった。

それは、なんのための調査なの?って話です。ここで述べられているような「前もって自動車メーカーが売り出そうと決めておいた車のうち、どれを消費者が好むのかを調査」するということであれば、それはそれで実施する意味があります。それが良いとか悪いとかではなく、目的を明らかにしない調査はやめましょう、ということです。(Google先生。検索ワードに対して、適切な警句を一番上に表示するサービスとかやってくれないかな・・・)

T型フォードは、生産革新ではなくマーケティング革新だった

また、本論文の中で、T型フォードで有名なフォード氏について、世の中の観点とは「逆のこと」が述られています。(恥ずかしながら、僕は初めて知りました。目から鱗です。)

世間はきまってフォードを生産の天才としてほめるが、これは適切ではない。彼の本当の才能はマーケティングに合った。フォードの組み立てラインによってコストが切り下げられたので売価が下がり、500ドルの車が何百万台も売れたのだ、といわれている。しかし事実は、フォードが1台500ドルの車なら何百万台も売れると考えたので、それを可能にする組み立てラインを発明したのである。大量生産は、フォードの低価格の原因ではなく、結果なのだ。

フォードは繰り返しこの点を強調したが、生産中心主義の経営者たちは、彼の偉大な教訓に耳を貸そうとはしなかった。

これに関連する、フォードの経営哲学については、本書のp.232に引用されているので、是非、ご一読いただきたいですね。コストを積み上げて製品価格を決めるのではなく、決定した価格を実現するためにコストを引き下げるのだ、というあたりには痺れます。

この前提に立つと「ボディが黒である限りどんな色でも選べる」という名言が、違った色合いを帯びてきます。つまり、これは「お前らに選べるのは黒だけだ。俺は黒しか作らない」という傲慢な発言ではなく、「爆発的に売れる販売価格を維持するためには、色を変えるようなコスト増は許容できない」、あるいは「色は(少なくとも現時点での)販売量に貢献しないので変える意味が無い」というマーケティングを熟知した人間の発言だったのだろうな、と。

温故知新。

上記のような記述は、現代でもそのまま通用します。今日もどこかで、目的が良くわからない消費者調査が行われ、T型フォードは生産革新+傲慢な経営者の事例として取り扱われていることでしょう。この論文「マーケティング近視眼」は、いますぐ使える警句に溢れています。

第4章の紹介でも取り上げましたが、ソフトウェア開発者の読まれない聖書(バイブル)「人月の神話」と似てますよね。「もっと現代に広く読まれるべき名論文」ですね。ハーバードビジネスレビューが「BEST10論文」と謳うだけのことはあります。昨今、薄っぺらい内容の本が量産されていますが、こういう「昔から語り継がれる骨太な論文」をしっかり読んで、自らの血肉とすることは非常に重要だなと再認識しました。村上春樹さんのノルウェイの森の登場人物が「時代の洗礼を受けてないものを読んで時間を無駄にしたくない」みたいなことを言ってたと思うのですが、まさにそんな感じですね。古き良き名著を腰を据えて読むことも、時に大切です。温故知新ですよ。

ちなみに、このレビットさんの本書内の紹介分によると「1960年代に、製造業のサービス事業化、サービスの標準化、顧客リレーションシップ、アフター・マーケット、無形資産の価値、の重要性を説く慧眼ぶりは、マーケティング界のドラッカーとも呼ばれるゆえんである」とのことです。「T.レビット マーケティング論」という著書があるみたいなので、シルバーウィークにトライしてみようかなと思います。(Amazonで一緒にお勧めされる「H.ミンツバーグ経営論」も買っちゃいたいところですが、そこにも手を出すと家族サービスに割く時間が限りなくゼロに近づいて、”家庭”の経営に支障が出そうなのが悩ましいところです。)

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