戦コンスキルは起業に役立つか?(7):行動規範④スピードにこだわる

AUTHOR :  網野 知博

第7回 戦略コンサルタントの行動規範④:スピードにこだわる

 この記事は戦略コンサルタントとしての経験が起業の役に立つのかという問いに答えるために、「私がコンサルタント時代に得た教え」をあくまで主観をもとに共有することで、各自の判断材料にして頂くという企画になります。

 そのために、戦略コンサルタントがどのような「前提」で、「心構え」で、「行動規範」で仕事を行っているのかを知って頂くことを狙いとしています。

 今回は第7回目になります。前回は「戦略コンサルタントの7つの行動規範」のうち、「仮説にこだわる」を紹介してきました。

 今回は戦略コンサルタントの7つの行動規範の中で4つ目の「スピードにこだわる」を紹介していきます。

 まずは、おさらいとして7つの行動規範(こだわり)を確認します。

①ファクトにこだわる

②論理にこだわる

③仮説にこだわる

④スピードにこだわる

⑤学びにこだわる

⑥成果物にこだわる

⑦視座にこだわる

 今回は「スピードにこだわる」です。

なぜ「スピード」が重要か

 「芸能人は歯が命」と同じように(古い・・・)、「コンサルタントはスピードが命」です。

 実は、「早さ・速さ」と「質」は背反すると思われていますが、戦略コンサルティングの世界では「早さ・速さ」と「質」は相関します。

 これは前回の「仮説にこだわる」にも通じますが、まずは仮説をケースにして考えましょう。よほどの天才コンサルタントではない限り、いきなり1回で完璧な正解までたどり着くことはありません。「仮説⇒検証」という繰り返しのプロセスを踏むことにより、質の高い回答にたどり着きます。じっくり考えて1回目の答えで勝負するよりも、この「仮説⇒検証」を何度も繰り返すことにより質があがります。弊社が提唱している小さなPD(CA)∞サイクルにもその考えは引き継がれていますが、実は圧倒的なスピードは質を担保するのです。

 私もコンサルタントに成り立ての頃はとにかく叱られました。スピードと品質にトレードオフの関係が存在すると思い込み、少しでもじっくり考えてしまうのです。ところが実際には、早く仕上げて、上司や先輩にレビューしてもらい、アドバイスをもらった後、それを持ち帰って再検討する方が圧倒的に質は高まります。

 これも仮説の時と一緒ですが、人間一人が考えることには限界があるので、周囲の賢い方々の力を使ってしまう方が、実はスピードの面でも品質の面でも好結果を生むことになります。

 ただ、言われると当たり前なのですが、これがなかなかできません。何が邪魔するのでしょうか。習慣なのか、プライドなのか、生煮えの物を他人へ見せる恐怖心なのでしょうか。少しでも良いものをぶつけたいと思うあまり、結局時間が経ってしまい、そのためQuickではなくなってしまい、もはやDirtyでは許されず、より良い物を作ろうと余計に時間をかけて考える結果、さらに良いものを持っていかないといけなくなるという、完全なる悪循環サイクルに陥ってしまいます。

 比較的徒弟制度の強いコンサルティング業界においては、どうせ何を持っていっても上司には駄目出しをくらい、こっぴどくレビューを受けるので、それならば早く持っていってしまえと割り切れる人が結局はうまくいっています。

質とスピードを担保する為には、とにかく紙に落とすこと

 上記を補足する内容として、質の高いアウトプットを早く出すには、とにかく考えを紙に落とすことが大事です。

 紙に落とすのは手間、つまりは時間がかかるので、考え抜いてから紙に落とす方が良いと思われることもありますが、生煮えで書き始めるのもよろしくはないですが、最初の頃は実は書いてしまった方がよいこともあります。

 私がコンサルタントになった時に、1枚のSlideを45分で作れと言われました。

 それまでの事業会社時代では2-3日考えてから提出するような内容を45分で出せと言われる訳です。当時は全く無理でした。能力ではなく、慣れの問題からです。その後数年、いつの間にか、「考えて、まとめて、Slideに落として」と言う一連の流れを40分程度でできるようになりました。再度書きますが、これは慣れの問題なのです。

 じっくり考えてからSlideを書くスタイルではなく、死ぬ程高速に考えて、死ぬ程急いでSlideに落としてみる。そして、紙に落としてみると、自分の思考の抜け漏れや論理矛盾にも気づきやすくなる。そこで、また死ぬ程高速に考えて、死ぬ程急いでSlideに落として、なんとか1枚のSlideを仕上げる。こんなことをしていると早死にしそうですが、以外と人間は死なない。(笑)

 まさにこれが「Quick & Dirty」なんだと、ある日突然に理解しました。「Quick & Dirty」とは言いながら、でも実は質の担保が必要とされているし、逆説的に言えば、質の良いものを作ろうとすると、実はスピード勝負で、作っては直しの繰り返しになります。

 「考える、形に落とす、また考える、直す、考える、直す」と言うアプローチの方が、「じっくりと考えきってから作る」よりも早く良いものにたどり着きます。論理的には分かるが実際は無理と思われている方は、とにかく数ヶ月から1年はやってみて下さい。数千ページのPowerPointのSlideを作った頃に、ある日突然当たり前にできるようになっているはずです。逆に言えば、数千ページくらいはやらないとできるようにはなりません。新人の戦略コンサルタントは100枚のSlideを書いても、採用されるのは良くてせいぜい2、3枚です。そういった悔しい下積みを経て、きちんと1枚のSlideが作れるようになっています。

 「スピードは実は質につながる。」そのために、とにかくまずはスピードにこだわる必要があります。すると、質もいずれはついてくるということです。

 そして、難しいですが、Dirtyという言葉に引きずられ、考えずに手だけ動かすことは御法度です。Dirtyとはいえ、考えなくてよいと言うわけではなく、死ぬ程考えるが、その時間がもの凄く短いのだということを誤解しないようにお願いします。

 この世界は二律背反することを背反せずに追い求めることが当たり前に求められるとても欲張りな世界です。実はこの質と量を当たり前に追う姿勢やスピードと質を同時に求める姿勢などは個人的には起業した際にはもの凄く役立っていると感じています。プライベートや異性の関係において役立っているかは触れないでおきます。(笑)

 今回はコンサルタントの行動規範として「スピードにこだわる」を紹介しました。

次回は「学びにこだわる」を紹介していきます。

次回に続く

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