マディング・ザ・ウォーター作戦とは? ~EDLPに対抗するために有効かつ必要不可欠な作戦~|データ分析用語を解説

AUTHOR :   ギックス

本記事は、株式会社ギックスの運営していた分析情報サイト graffe/グラーフ より移設されました(2019/7/1)

大企業が資金力を武器にEDLPで戦いを挑んできたときに、威力を発揮する対抗策

巨人ウォルマートが掲げるEvery day Low Price/エブリディロープライス(EDLP)に対抗する作戦である「Muddying the water/マディング・ザ・ウォーター」について解説します。

作戦名「Muddying the water/マディング・ザ・ウォーター」が示すもの

価格競争に陥りがちな小売業で生み出された作戦で、特に大資本力のある大手企業が、その体力を武器に全商品低価格で戦いを挑んできたときに、小資本力の自社が戦う作戦の一つです。「マディング・ザ・ウォーター」を和訳すると「水を濁す」となり、実はこの言葉通りのことをするだけです。圧倒的低価格を打ち出し顧客を取ろうとする相手に対し、その加価格差をよく分からなくする(泥水の中のように見えなくする)ことがこの作戦の立脚点です。EDLP
(図:ウォルマート店内)

マディング・ザ・ウォーター作戦は差別化戦略以外の数少ない対抗策

総じて、大手企業(アメリカで言えばEDLPを実施しているウォルマート)に比べ、他の競争相手となる小売企業の商品販売価格は同じ商品同士で比較すると10%近く小売り企業の方が高いことが一般的です。しかし、大手企業に比べ資金体力も購買体力もない中小企業はEDLPを打ち出すこともできませんし、なにしろ低価格化競争に打って出ることは、長い目で見ても死に向かうことが明らかです。この場合、高付加価値化に向かう差別化戦略が一般的ですが、一つだけ残されている価格訴求戦略に沿うのがマディング・ザ・ウォーター作戦です。要約すると全ての商品を低価格にするのではなく、一部の商品の価格を競争相手よりも安く提供することです。

鍵となるのはFSPプログラム(=会員カード)

アメリカのある小売企業は、近隣にウォルマートが出店されたため、それまで目立っていなかった自社商品の価格に注目が集まってしまいました。価格競争で戦っていくには、それほど体力がありませんでした。そこで、自社のFSPプログラムを活用し、「50ポイントでブロッコリーはいつでも割引価格で購入できる権利付与」を実施しました。顧客は1ドルで1ポイントたまるので、50ドル購買すれば、ブロッコリーはいつでも割引価格で購入できるようになりました。さらに、ブロッコリーだけでなく、牛乳やひき肉など“定番商品”から複数権利を用意しました。
つまり、沢山購買してくれる常連顧客を優遇し、(ウォルマートよりも)低価格で常に提供する仕組みを構築したのです。

作戦成功に向けた3つのポイント

このように得意客だけに低価格で商品を提供するという、「水を濁らせる」ことこそが中小企業が資金力のある大手企業に対抗する手段の一つと言えるでしょう。しかし、ポイントがいくつか存在します。その中でも、

  • FSPプログラムは必須。そうでないと単なる特定商品低価格販売となってしまう。
  • 顧客にお得感を抱いてもらうために、購買頻度の高い定番商品を対象とする
  • 圧倒的低価格商品を扱う一方、高利益商品も購買してもらうという「店舗全体での利益、顧客獲得」が分かる仕組みを導入し、常にチェックする

の3点は本作戦の基本となる為、作戦実施に当り、しっかりとデータ分析の専門家も入れ熟考しなければならないポイントとなります。

「ハイ&ロー」ではない。勘違いしてはいけない

よくEDLPの話と合わせて出される話として、ハイ&ロー政策があります。しかし、今回解説しているマディング・ザ・ウォーターとハイ&ローは全く別物となります。ハイ&ロー政策の根幹にあるのはチラシや店頭インパクトによる集客であり、その特売目玉商品が毎週(店舗によっては毎日)異なることにより顧客を引き付けるという考え方です。これを行ってしまうと、バーゲンハンターやチラシによるチェリーピッカーを呼び寄せることにほかならず、大切な顧客ロイヤリティ醸成とは何ら関係のない不毛な作戦となってしまいます。
マディング・ザ・ウォーター作戦の基本は沢山購買してくれる常連顧客に対し、その常連顧客が望む定番商品をある条件をクリア(例えば蓄積ポイントがXXポイント以上など)した場合に限り、圧倒的低価格で当該商品を提供するということにあります。
この考え方の基本を誤り、安易にハイ&ローに踏み切ると財務体力勝負に持ち込まれ、あっけなく敗北が近づくことでしょう。
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