2025年4月22日に当社が主催した「GiXoデータインフォームド・サミット2025」の基調講演「津南町における地方創生“津南創生”」のセッションレポートをお届けします。
登壇者紹介
新潟県津南町 町長 桑原 悠氏 |
目次
豊かな自然と雪に育まれた津南町の魅力
皆様こんにちは。新潟県の魚沼地域から参りました、津南町で町長をしている桑原 悠です。ギックス様とはエアージャパンの峯口社長を通して出会いまして、2024年から地域活性化のパートナーシップ協定を締結し、Mygru(マイグル)を活用したスタンプラリー事業でご一緒しております。このようなご縁から本日お話をする機会をいただき、大変ありがたく存じます。

新潟県津南町 町長 桑原 悠 氏 1986年生まれ。2011年、東日本大震災・長野県北部地震を機に、東京大学公共政策大学院在学中にUターンし、津南町議会議員に初当選。2018年より津南町長(31歳、就任時全国最年少)。現在2期目。全国若手町村長会副会長。男女共同参画会議、新しい地方経済・生活環境創生会議など国の委員も務める。養豚農家に嫁ぎ、小学生2人の子育て世代。 |
私どもは町民の福祉の増進を目的として仕事をしておりますが、自分たちのエリアに閉じず、外部の企業様や他自治体様と交流することで、変化に対応していけると考えています。そのため本日は私だけでなく職員も大変貴重な機会をいただいたと思っております。
それではまず、新潟県津南町についてご紹介いたします。

立地は新潟県の南部、越後湯沢と接しており、東京からは約2時間ほどでアクセス可能な距離にございます。人口は8,500人です。

今年は本当に大雪で、2月には寒波が2回も来ました。4月下旬でもまだ雪が私のふくらはぎのところぐらいまで積もっているところもありますが、ちょうど桜が満開になり、田んぼが見え始め、山菜もとれるようになってきたところです。春が駆け足でやってきたという感じがいたします。(編集注:東京都は3月30日に満開)春先の特産品は、この大雪の下から掘り出す雪下人参で、ジュースでの加工品販売も行っています。

雪が多いので水も豊富です。有名なところではファミリーマートさんのプライベートブランド「津南の天然水」が全国に流通しているほか、ANAさんやJALさんなどの航空会社様の国際便などでもご利用いただいています。
豊富な水量に加えて、段状の地形で高低差もあるため、水力発電も盛んです。水力発電の教科書と言われた東京電力さんの水力発電所群を有しており、最近では投資家やファンドからも注目度が高い小水力発電の開発も盛んに行われています。
我々はこの大雪をプラスに変えていきたいと考え、最近は「ゆき みず だいち つなんまち」というブランドスローガンを発信しております。

町長としての原点と若手・女性リーダーへの思い
次に、私の自己紹介をさせていただきます。

私はこの津南町で生まれ育ち一度東京に出たのですが、ふるさとの町を良くしたいというモチベーションでUターンをして、25歳で町議会議員になりました。政治の道に進む時には、両親にも友達にもびっくりされました。
地方自治はとても大変です。過疎も進んでいるなか、そこに希望はあるのかと言われることもあるのですが、やるから希望があるのであって、希望がないからやらないわけではない。そして希望があっても決して楽観視はできないと思いながら、とにかく津南町を良くしたいという想いでこの仕事をさせてもらっています。組織を長として率いている、とまでは言えませんが、結果として多くの皆さんのご協力を得られて、今日まで仕事をさせていただいています。
こうしたローカルを良くするという仕事に共感する人も増やしていきたいという思いから、最近は自治体間の横の繋がりで若手町村長会を結成して、みんなで地域活性化について議論をしております。
そして、女性の首長も増やしていきたいと考えています。日本全国の自治体約1700のうち、女性が首長を務めるのは50程度です。まだ女性が首長を務める自治体は非常にマイノリティですし、30代などの若手もとても少ないです。
私は25歳からこの世界におり、困難や悔しい思いをしたこと、つらいことなどもたくさんありましたが、こうした場に呼んでいただけることは非常にありがたいです。若手の目線、これからの時代を作る意識の醸成はとても大事だと思っておりますので、トータルでは良い経験だったかなと思っています。
津南町の基幹産業「農業」分野の挑戦と進化
ここからは、津南町の産業や取り組みについてご紹介します。まず、基幹産業である農業についてお話しいたします。

最近はお米の情勢が混乱しており、魚沼産コシヒカリの価格も高くなっていますが、今後も中長期に安定供給をしていかなければいけません。我々としては基盤をしっかり整備して生産性を上げていくということで頑張って米作りをしています。
農家の出身という立場で代弁させていただくと、農業における経済合理性で語られるとおり、農業は良い時も悪い時もあります。特に今、気候変動でいろいろと苦労することもありますが、農業は人類が生きる糧であって、命を育てる尊い仕事であると思っております。

アスパラガスとスイートコーン、雪下人参なども生産しています。アスパラガスは実は生産量は少ないのですが、非常に高いレベルの美味しさだと思っていまして、ぜひこれから売り出していきたいです。

魚沼の産地でもお米だけでは立ち行かないため、水稲と園芸を組み合わせた複合農業を行っています。

私が就任してから農業法人の新規設立にも力を入れてまいりまして、最近はその数も増えています。30代40代の農家が人を雇って農業をする形が全町にわたって広がるようになりました。

若い世代の農家の方が増えると、新しい人材や新しい技術も入ってきます。現在、農林水産省では「スマート農業」を推進していますが、実は我々は、国がスマート農業と言い始める前から力を入れてきました。今はドローンの免許取得者も50人以上と、スマート農業が当たり前のように広がっています。
若手医師の新しい働き方の実践と医療インフラ維持を両立
次に医療分野についてご紹介いたします。

新潟県全体が医師不足で、当町も例に漏れず医師不足の中で、若い医師を呼び込み様々な取り組みをしています。

最近は医師による2地域居住とダブルワークの合わせ技のような取り組みについて、日本経済新聞にも取り上げていただきました。東京など都市部在住の医師に週の半分は津南に通ってもらい「2人で1人分の常勤医」となっていただくことで、町の医療を守ってもらっています。
人口減少を前提とした「まちづくり」戦略
次に、人口が減少することを前提としたまちづくりについてお話しいたします。


人口減少下では、このままいけば負のスパイラルに陥り地域経済が成り立たなくなります。そうなりますと、ある意味強制的かつ不本意に住民サービスを止めざるを得なくなり、公共施設も閉じる必要が出てきて、結果的に町民のQOLが下がってしまいます。つまり、このまま何も行わなければ経済文化的に消滅することを意味します。

しかし津南町には、地域で有数、国で有数という高いレベルで戦える産業はまだ残っていますので、この部分に力をいれていこうという戦略をとっています。

このスライドはあくまでイメージですが、赤い点線の矢印は、人口減少にあわせて今の事業を整理し、ある意味ダウンサイジングをしていくような考え方を示しています。一方で緑の矢印は、これから起爆剤になるような取り組みを表しており、津南町ではこの両軸での施策を行っています。
昨年は、赤い矢印の取り組み、既存事業の見直しをメインに行いました。例えば、小学校や保育園の統合です。地域の皆様からの反対もありますが、こうした見直しも進めていかなければいけません。とても苦しい1年でしたが、一定程度は整理が進んだと考えています。

一方で、起爆剤になるよう緑の矢印の取り組みにあたる、企業様との連携も行ってきました。
まず事業承継の取り組みです。我々がこの町に残したいサービスを公募して、後継者を見つけていきました。具体的にはとんかつ屋さんの後継者が見つかるなどの効果も表れています。
打ち手としての規模感は大きくありませんが、こうした取り組みは町民から好評をいただいています。
外部人材・技術を巻き込み機動的に行う企業連携事例

また、エアージャパン様とも取り組みを行っています。
日本は魅力的な国ですから、これからもインバウンドは増えていくと思います。何度も日本を旅行される方はきっと、次は大都市から地方に行ってみよう、自分らしい過ごし方をしてみよう、などと思うはずです。そこで「日本のまだまだ知らないローカルを開拓していこう」というエアージャパン様の考え方に非常に共感いたしまして、私どもも一緒に取り組ませていただいています。
- 機内で津南町の動画の放映
- CAによる津南町のSNS紹介
- 雪下にんじん掘り競争への参加
- タイ人ツアーの企画
以上のような取り組みを今日まで進めてきています。最近、エアージャパンに乗ってシンガポールから来られて、機内で動画を見たことをきっかけに津南町にお越しいただいた、という方にお会いしまして、本当に嬉しかったです。取り組みをしていてよかったと心から思いました。

また、RoBoHoN(以下、ロボホン)を活用した取り組みを2019年頃から行っています。これは職員が熱い気持ちで始めたのですが、2019年頃からご当地ロボホンの取り組みをしていて「つなホン」と命名し、津南町の観光大使として活躍してもらっています。すると、「つなホン」に会いにロボホンオーナーさんが全国から訪れていただけるという、私たちが思ってもみなかったようなことが起こりました。

町の中でマップを作ったり、ロボホンフレンドリースポットを作ったりしながら、ロボホンオーナーさんウェルカムな町づくりも行っています。

本日ご紹介した以外にも、多数の企業様との連携を行ってきました。
繰り返しになりますが、津南町は小規模な自治体です。打ち手の規模はそれほど大きくありませんが、小さいからこその独自性、機動力の良さ、決裁スピードの速さを活かし、様々な企業との取り組みを行っています。私たちは国で例えると小国の規模ですから、まるで外交するかのように企業、あるいは他の自治体と付き合うことが大事だと思います。こうした外部との協業事例やアライアンスを作っていくことに大きな意味があると考えています。

ギックス様とはMygruを活用したデジタルスタンプラリー「つながる、つなんスタンプラリー」を実施しました。
- ギックス、新潟県津南町と地域活性化推進パートナーシップを締結 観光客回遊・関係人口増加・雇用創出に向けた各種取り組みを推進(2024/10/9)https://www.gixo.jp/news-press/25555/


このスタンプラリーは、津南町の宿泊施設や飲食店、観光スポット巡りや地域イベントに参加することでデジタルスタンプを集める、条件を満たした方は、津南の特産品などが当たる抽選に参加できる、というキャンペーンです。
ギックス様と地元住民、町役場の職員が一緒になって取り組みの検証をしたり、そこから改善したり、という協働の体制をとることができた点が非常に良かったです。

町役場の担当者だけで施策を行うよりも、地域住民の方や、外部の方々に参画いただく方が、町の良さの再発見・開拓・掘り起こしに繋がることが多くあります。こうした企業様との取り組みや、地元の方を巻き込んだ手触り感のある施策ができているのが津南町の特色かと思います。

第2回のスタンプラリーでは、毎年3月に実施している「つなん雪まつり」のデータも多数取ることができました。こちらを来年の雪まつりに活かしていきたいと考えています。
施設・学校・イベントの魅力開発で、関係人口を創出
最後に、「人の呼び込み」を目的とした取り組みをご紹介します。

最近は、ふるさとがない子どもたちが増えてきているということで、「ふるさと作り」が非常に大事になると考えています。そこで、地域を知っていただくための体験ツアーを実施しています。数回の訪問を通して徐々に階段を上がるように関係人口になっていただき、なかには移住される方も生まれています。

企業様の拠点となるテレワークスペース「だんだん」という施設も開設しました。こちらでは夕方に高校生が集って、バスを待ちながら勉強もできるような施設にもなっています。

また学校魅力化支援・存続活動でも特色ある取り組みを行いました。
例えば少子化で定員割れになり、募集停止の危機に陥った津南中等教育学校では、それを食い止めるために地元自治体と子どもたちが連携しながら探求学習(生徒自らが課題を見つけ、それに対して情報収集や分析、提案等を行う学習活動)を始めました。
この活動が実を結び、様々な探求学習の全国大会で優秀賞をいただく常連校となった結果、現在学校の受験倍率はV字回復しています。
探究活動を通しての産学連携やデジタル活用を取り入れたことで、教員だけが教育を提供する役割ではなくなります。地元の人たちに一緒に教育へ携わっていただくことで、教員の働き方改革など、良い循環へもつながりました。

津南町は国際芸術祭「大地の芸術祭」の開催地でもあります。こちらも先ほどお伝えしたMygruのデジタルスタンプ獲得スポットとしたことで、町内の回遊を促す効果を感じています。
外部との連携が切り開く、津南町の未来
最後になりますが、以上のような様々な取り組みを通じて、人口減少下の地域自治体経営を行うポイントとして強く感じていることが2点あります。
1点目は、自分たちだけで中に閉じずに、外部と連携したチーム編成にした方が良い、ということです。町役場の人間など、いわゆる「中の人」だけで管理・運営して閉じた状態だと、最適な事業運営ができているかわかりません。「外の人」の目線を入れることはとても大事だと考えています。
2点目は、産業や地域を連携させていくことで、自分たちのチームを大きくしていくことの大切さです。小規模な自治体である私たちは、いろいろな機能を自前で持てるわけではありません。今後も自前主義を脱却してお互いのビジネスを高め合える関係構築をしながら事業展開していき、アライアンスを前提とした自治体経営にこれからも取り組んでいければと考えています。本日はありがとうございました。