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金巻龍一の「そもそも論」:コンサルティングファームはなぜ存在するのか?

AUTHOR :  網野 知博

戦略をコンサルティングするビジネスモデルとはどういうものか?

GCA サヴィアン マネージングディレクターの金巻龍一さん。独特な発想と思考力により常に斬新で切れ味の鋭い発言をされますが、その金巻さんに発想の原点ともなる「そもそも論」を語ってもらいます。

金巻 龍一(かねまき・りゅういち):
GCA サヴィアン マネージングディレクター
M&Aアドバイザリーの一環として、成長戦略、企業統合に関するサービスを提供する。元日本IBM常務執行役員 戦略コンサルティンググループ統括。2012年8月に退任後、RIDOを設立。2014年1月から現職。専門領域は企業変革、グローバリゼーション、サービス事業開発。慶應義塾大学特別招聘教授。

「戦略コンサルティングって、論理的に成立しないビジネスだ」

網野:

本日はお時間頂きありがとうございます。金巻さんはPWC、IBMで戦略グループを長い間リードされてきたのですが、この度M&Aアドバイザリーと言う仕事に就かれました。私は自分で事業を運営している身とは言え、弊社は広義に捉えると「コンサルティングを生業としている企業」と言う部類に属します。金巻さんは長い間コンサルティングを経験されて、M&Aアドバイザリーと言う世界に行かれたわけですが、外に出たからこそ分かる「コンサルティング」や「コンサルタント」というものをお話頂きたいと思います。

金巻:

M&Aアドバイザーの会社に入社したけど、アドバイザリーは、こちら側に情報やノウハウのアドバンテージがあって「こうすべき」と提言する感じ。一方、コンサルタントはいろいろな情報の中、いろいろな一長一短が存在し「こう考えるべき」とでもいうのかな。こんなに文化に違いがあるとは思わなかった。取り扱っているテーマの熟成度の違いかもしれない。前者は誰もがまったく答えがわからない課題、後者はなんとなく自分でもわかっているような課題、とでもいうのかな。コンサルタントはいわばコモディティ化した課題を扱うという表現でもいいかもしれないよね。

網野:

コンサルタント出身者はそもそも論から入りたがる人種なのですが、笑 そもそも「コンサルティング」とは何であり、また「コンサルタント」とは何なのでしょうか?

金巻:

「コンサルティングとは何か」と考えると難しいね。コンサルティングには資格がない。道に迷った人がいて「駅はどこですか」と聞かれたときに、「ここをこう行って。。。」みたいに教えることも、広義にとらえればコンサルティングをしてると言えなくもない。コンサルティングを行う「ビジネスモデル」とは何かと考えた方が本質に迫りやすいかもね。

自分の場合、あるコンサルティングファームに自分で志望しておきながら、実際に入社して「戦略コンサルティングをやれ」と言われたとき、「なんで自分なんかにそんなことができるのだ?」と初めて愕然となった(笑)。「きっと会社には秘密のノウハウデータベースがあって」くらいに考えていたくちで、本当に今考えると恥ずかしい。穴があったら入りたいでなくて、穴を自分で掘ってでも入りたい、という感じ。言ってみれば、当時は財務部と経理部の区別すらつかないいくらいの状態。一方、お客様つまり経営者の方々は、その業界で長年実績を残し、数百数千の部下からの信頼が厚いリーダー、何百人といる同期との戦いに勝ち残り、さらにその多くは海外の大学院に留学し最先端のアカデミズムと豊富な人脈をお持ちとくる。そんなスーパーマンに、なんで自分ごときが「こうあるべき」とモノゴト)を教えられるのかと。

つまり、「戦略コンサルティングって、論理的に成立しないビジネスだ」と思った。すべては、そこが始まり。そしてその疑問があったからこそ、その後もこの業界で生き残れた。

客観性や中立性はそれ自体では価値にならない

網野:

なるほど。金巻さんらしい着眼点ですね。既に存在する業界を「論理的に成立しないビジネス」だと存在自体から疑ってみた。笑

金巻:

うん、まあ、わからないなりにこの世界に入って、とにかくやってみた。すると、勤めている人の横で、タクシーメーターのように時間あたりでコンサルティング料が課金されていく。9時に来て午前中が終わった段階で、お客様に「○○万円いただきます」といっても、「ああそうだね」と平気でそれを出してくれるような価値がなければならない。そうそう、お客様が、突然、自分の隣に座っていた人間の頭を指さして「この人いらない」と返品する場面を何度も見た。皆、自分の価値を上げないと居場所がなくなってしまうと必死だった。会社に帰っても自分の席はないしね。

先輩や同僚たちのお客様の「問題を解決しよう」、「物事を進めよう」という想いが、そこに勤めている人たちとまるで違う。その当時はまだ日本も成長期で、多くの人には「ひとつの会社に一生勤めるもの」という意識があった。そんな時に「いま価値を出さねばクビになる」という真剣さは、「価値」として成立するだろうとは思った。

ただ、「想いが違う」「迫力が違う」だけでは、お客様以上のアイディアがでるという理由にならないし、この業界が成り立つまでの説明には到底ならない。

網野:

確かに。働いている人達の気概はわかっても、それが金を払うほどのバリューなのか、業界が存在しうるほどの価値なのかと問われれば疑問ですね。やる気ならうちの会社も負けてないよ、で反論されてします。笑

金巻:

ちょうど当時はITコンサルティングという言葉が生まれブームになりつつあった。経営者にとって、ITはコア業務ではないし、IT要員を一般的な人事ローテーションにのせて経理を2年、営業を3年とやりながら「いずれは社長を目指せ」という感じでもない。さらには、日進月歩の技術革新、どんどん人材が陳腐化していく。つまり、社員として雇うにはリスクがあり、高くても良いから必要なときに外部からワンショットで買う方がいいという発想が生まれてきた。こうした状況で、その時々の「旬な技術」を持つ人をコンサルタントと呼ぶ意味はわかった。

だが戦略策定はITと違って企業の本業中の本業。ITの世界でコンサルタントが存在する理由はまったくあてはまらない。

網野:

なるほど。ITが分かる人材と言うのは、当時はまだ特殊だったため、それをコンサルティングと称して提供するプレーヤーが存在するのは理解できる。そして、IT実装の上流部分の企画調査系の作業を戦略コンサルティングと称してバンドルすることも可能かもしれません。ただ、それでは単独で戦略コンサルティングが存在する理由にはならないわけですね。

金巻:

よくコンサルティングファームは「第三者の立場」、「中立性」、「客観性(固定観念がない)」と唱える。個人的には、これは絶対に違うと強調しておきたい。

だって、自分が就職するときに、中立的な第三者の意見を聞くために渋谷のセンター街で「俺どこの会社にいくべきかなぁ」なんて聞くやついないだろ。でも、多くのコンサルタントは「中立性」、「第三者」という言葉を使いたがる。あと、「ノウハウ」という言葉もいかがわしい。ノウハウは、経験だったり情報だったりの組み合わせなんだろうが、経験したからってそれが違う状況で再現できるとは限らない。第一、我々以上にお客様はいろいろな経験をその業界でしている。じゃ「情報量」か、いやこれも違う。 今はグーグルひとつで、ちょっとした洞察力を働かせれば、ほとんどのことがわかる時代だ。インターネットのないずっと以前なら「情報を持っていること」は価値になりえたんだろうと思うがね。

誤解のないように言っておきたいが、客観性や中立性が悪いわけではない。ただそれは、人が何を考えるにしても必要な能力であるわけで、そのこと自体がとりたてて「価値」にはなりえないというということだ

「時代の流れ」があるから存在できるビジネス

網野:

そうなると、結局は、何が価値ということになるのでしょうか?

金巻:

一言でいえば、「時代の流れ」があるから存在できるビジネスというのかな。経営戦略は、その時々の、技術動向、顧客や市場の特性などを考慮して策定される。つまりは、技術はこうなる、顧客はこうなる、市場はこうなるという仮説を置き、それに最適になるように、ヒト、モノ、カネを集約させたわけだ。つまり、ある前提を置いて考えられている。網野さんのいうところの「仮説思考」というやつだね。

世の中は変化する。ある時点で、仮説ないしは前提が崩れはじめる。こういう状況を引き起こす要因をチェンジドライバーと呼んでいるよね。法規制緩和や技術革新、顧客の成熟化など、その要素は無数にある。そのときに、成功している企業ほど、その対応が遅れがちだ。チェンジドライバーを感じても「自分たちの戦略は無敵」だとか、「それは一瞬の話」であって影響は少ない、とか。人は信じたいものを真実だと思い込む傾向があるよね。だから成功体験が大きいほど変化を嫌う。しかし、かつての前提、つまりそのときの常識が非常識になれば、ゲームのルールも勝利の方程式もまったく違うものになる。我々から見て、お客様が「経験」というアドバンテージを失った状態なわけだ。

網野: 「チェンジドライバー」が、顧客の知識や常識をリセットする。でも、所詮はリセットであって、この時点でコンサルタントたちにアドバンテージがあるわけではない状況です。

金巻:

まさにそのとおり。ところが、世の中を見渡すと、そのチェンジドライバーにより出来上がった新たな常識にいち早くチャレンジし成功を収める企業が出てくる。新しい勝利の方程式のヒントだ。

網野:

なるほど。とは言え、いくら過去の成功体験でガチガチとはいえ、その新しい成功者への研究も、それまで成功してきた優秀なクライアント企業達ならやりかねませんね。

金巻:

そうだね。だから、お客様はどうしても先端事例を求めたがる。

網野:

確かに。でも、事例が知りたいという要望でも、普通に先端事例を持って行っても否定大会が始まります。必ず「この事例は、我々の業界や企業には当てはまらない、日本では当てはまらない、我が社は特殊だから、、」となる。笑

金巻:

企業の特性は個々に違う。だからどんな企業にも有益なベストプラクティスなんてものは存在しない。そういえばベストプラクティスという言葉を流行らせたある企業は、最近はその言葉を使わずにコモンプラクティスなんて言い方をしているよね。これならわかる。でもそれじゃ、アドバンテージは作れない

網野:

つまり、それは表面的に、「どんな組織をつくってどんな売り方をしているか」とかを見てもダメで、その変革の背景にあるチェンジドライバーや変革内容の本質的な普遍化がなされていないためですよね。

金巻:

そのとおり。何をしたか、を考えるのでなく、自分たちと同じチェンジドライバーを迎えた企業がどこか、とまずは考えるべきだろう。さらには、その企業が新たに作り出したビジネスのモデルについて、「オペレーションプロセス」、「マネージメントプロセス」、「プラットフォーム」のような”要素”の単位に普遍化、体系化し、これらの変革により、「市場や顧客」、「価値訴求のポイント」、「スキルや文化」をどう変革したかを見るべきだろう。こんな感じで、チェンジドライバーが作り出した新しいゲームのルールと、それに適合したビジネスモデルと構成要素が、わかれば、その改革は「技術移転可能」になったと言える。

網野:

そして技術移転が可能になった理由を提示できれば、それはコンサルティングの必要性を表現できることにながる。

金巻:

その通り。一般的にオファリングは、企業の「財務諸表のどの部分に、いつまでに、どのくらいのインパクトを与える」というものだが、改革のモデルは、「なぜそんなすごいことが実現できるのか」という実行力を示すもの。すなわちデリバリーケイパビリティを証明するためのものだろうね。

網野:

なるほど、ここで顧客がコンサルタントを使うと何を実現できて、それがなぜ自分たちだけではできないか、つまり、WHY PROJECT, WHY CONSULTANTが成立するわけですね

金巻:

うん、ただ、モデルがあるだけではダメだよね。ここで、いわゆる「分析手法」「ファシリテーション手法」「フレームワーク」「ツール」等々が出てくる。個々の企業が直面している特有の経営環境、たとえば、市場の状況、戦略の内容、企業文化やスキル、現行プロセス、システムの状況、何よりも組織の底辺に流れる感情。これらを考慮しながらモデルをカスタマイズしていくわけだね。カスタマイズというと何やらイージーオーダー見たいだけど、実際にやってみると、一から何もかも考えているのとそう変わらないくらいの工数がそこに発生する。

よく「どんな問題にもお答えできます」というコンサルタントと称する人がいるが、そんなわけはない。自分の研究しているチェンジドライバーがあり、それにいち早くチャレンジした有機ある先端企業がいなければモデルは成立しない。チェンジドライバーがない限り、我々は所詮、その企業でのビジネス経験のない烏合の衆だ。

コンサルティングビジネスとは、地球上の時間差、業界間の時間差をもとにした「先端ビジネスモデルの技術移転サービス」

網野:

そのモデルを開発のための情報を入手できる先端企業を見つけるといっても、実はそんなに簡単ではないですね。普通はなかなか見つけ出せないですし、見つけてもなかなか深い情報まではたどり着きません。

金巻:

そりゃそうだ。そこで重要なのが、「地球上の時間差」、「業界の時間差」を考えることだね。例えば、日本の金融ビックバン。これが日本で起きたときには、日本の金融業は大変だった。でも、日本の金融機関が大慌てだったころ、とっくにイギリスやアメリカではそれをようやく乗り越えていた。ということは、イギリスやアメリカでそれを経験した人間が飛行機で日本に降りれば、「タイムマシンに乗って未来からコンサルタント(答えを知る人)が来た」となる。

もうひとつ例に出そうか。日本ではここのところずっと「能力主義」の推進が課題になっている。その良し悪しの議論は省くが、仮に能力主義が今の日本に適しているとした場合、かつての日本が「能力主義」の良さに気付かなかったのか? そんなわけはなくて、当時の日本には終身雇用がマッチしていて、今の時代が能力主義の適した社会になっただけの話だ。どちらかに絶対的な正しさがあるわけではなく、あくまで前提がどうなのか、と言う議論。例えば、アフリカのある国で考えよう。革命が終わり、国が立ち上がったばかりの状況で、いきなり能力主義を掲げて実行してもうまく発展していくかは幾分怪しい。日本の戦後以降の成長期において終身雇用があり、結果として安心して皆が仕事でき混乱が収束したように、このタイミングで「年功序列」のモデルを持っていけばもの凄く当てはまる国もあるだろう。

つまりは、コンサルティングビジネスとは、地球上の時間差、業界間の時間差をもとにした「先端ビジネスモデルの技術移転サービス」とでもいえるのかな。

網野:

なるほど。とすれば、その時間差を武器とするためには、コンサルティング会社は、それ自身がグローバル企業でなければならないということになりますね。

金巻:

それは絶対的なアドバンテージだろうね。ただ、こうした時間差は、「業界間」にも存在する。たとえば規制緩和がそれだ。金融の自由化、通信の自由化、さらには電力の自由化。自由化と聞くたびに「マーケティングの多様化」だと考えがちだったが、通信の自由化で難航したのは実は「ビリングの多様化」だったらしい。一律、一定時間でいくらという課金体系のバリエーションが爆発的に増え対応がきわめて難しかった。このあたりのノウハウは業界が違っても当然同じように発生するし、解決方法は比較的似ているはずだ。

網野:

地球上の時間差、業界間の時間差を考えれば、未来に直面することがわかり、それにいち早く対応し、技術移転可能な普遍的なモデル作りのヒントになりえます。そしてそれを個社の特性に合わせて適合させていく。あるべき姿と現実との架け橋的な存在になりますね。

金巻:

こう考えると、我々がちょっと寂しく思うのは、誰もがやったことがないというものにチャレンジできないということだ。言い方が悪いがいつも「二番煎じ」を作ることになる。だから、IBM時代は、それがモチベーションだったかな。自分たちの会社がグローバルで活動する事業会社だった。新しい時代への新しい試みをIBMという事業会社で試す。つまり実験するということだね。そしてそこで成果の出たものをモデル化し、お客様の改革に役立てる。つまり、IBMのコンサルティングは、いつでも自分たちが「毒味」をした安心できるものという訴求ができた。コンサルタント嫌いのお客様にも自信をもって提案に行けた楽しい時代だったなあ。

網野:

私もコンサルティングファーム時代はそこそこ評価されたコンサルタントだったのですが、笑 それでも、きちんとコンサルティングとは何か、コンサルタントとは何かを考えてこなかったですね。コンサルティングをビジネスとして考えると新ためて新鮮な気分ですね。

金巻:

君をフォローすると、ほとんどの人は考えてないからね。笑 今日の話は、やれ「時代の変化」だとか、「変化するものが勝つ」とか、「グローバル最適化」、「ビジネスモデル」と、安易なキーワードがはじめにあって、それが「そもそも」何か、どうしてそれが重要なのか、を考えない風潮があるような気がする。昨今、コンサルタントは実態がないとか企業をダメにするという本が流行ってるけど、本質を考えようとせず安易にモデルを振り回せば確かにそうなってしまう。そしてコンサルタントへのヒステリックなまでの排除論が起きるというのは、裏を返せばそれだけ不思議でもあり期待が大きいんだと思う。

網野:

そういう意味では、お客様がコンサルタントを雇う場合に、「あなたの会社のビジネスモデルはどうなってますか」と訊ねるといいですね。本当にわかっている人と、安易なキーワードだけの人の違いがすぐに分かります。

あ、自分には聞いてほしくないですけどね。笑

金巻:

うん、本当にそうだね。笑

網野:

本日はありがとうございました。また次回の「そもそも論」をよろしくお願いします。

 

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