clock2014.06.10 09:02
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アクセンチュア関一則氏対談②:「Direct to Consumer」の潮流 〜デジタルマーケティングの前に知っておくべきこと~

AUTHOR :  網野 知博

アクセンチュア製造・流通本部で一般消費財・サービス業界グループの統括リードを務められている関一則さん。営業・マーケティング領域を中心に、戦略策定から業務設計・システム化・変革実行推進まで、一気通貫でのCRM改革支援に対して非常に豊富な経験をお持ちです。本日は関さんにデジタルマーケティングに関してお話を伺ってまいりました。

第2回:消費者に感動を与えるストーリー

網野:

消費者にダイレクトにリッチなコンテンツを提供できる環境ができ、またそのコンテンツに消費者が感動したら、それを自らが周囲に普及させてくれる環境ができたことにより、企業側はますます「Direct To Customer」という事を意識して活動していく必要が出てきますね。

関:

”Direct”に消費者へ伝えるメッセージは、消費者に対してある意味納得感と言いますか、信頼感、深い且つ明瞭なストーリーが必要となります。 ここではそのように消費者にダイレクトにストーリーを伝えることをデジタルマーケティングと呼びましょう。 クライアントの経営者と話している際に、「広告との違いは何か?」と問われることがあります。広告は、所詮15秒や30秒なので、ストーリーではなく、記憶に残るインプレッションが大事だと思います。一方、デジタルマーケティングはある程度の時間をとって動画を見てもらうとか、内容に触れてもらうことができるので、それこそストーリー、消費者の納得感が大事だと考えています。広告は広告を出す企業のメッセージを何度も伝えることにより消費者にメッセージを刷り込み、記憶に残るようにしていきます。つまり、デジタルマーケティングは消費者が一回見れば二度と忘れないストーリーを提供することが重要なものだと捉えています。この2つは役割が違うのです。 更に言えることは、偶発的に出会う広告より、デジタルマーケティングにおけるコンテンツは能動的に探してもらえる分、記憶にも残りますし、結果として認知度の変化が大きいと考えます。テレビを見ている最中にたまたま15秒のCMを12回見てもらうのと、能動的に自らが3分(180秒)の動画を見てくれるのと、どちらが認知、興味を深めることができるかは明らかだと思います。

網野:

確かにその通りですね。単純にネット上で行うプロモーション活動がダイレクトマーケティングであると捉えるとテクニック論に陥りがちです。ですが、2つの環境変化に基づき、消費者にダイレクトにストーリーを伝えることがデジタルマーケティングであると捉えると、企業のデジタルマーケティングへの取り組み方は大きく異なります。

関:

デジタルマーケティングはウェブ広告のやり方であったり、バナー広告や、リスティングなどといった、「手段」の問題ではありません。もちろんそれらはやってもいいのですが、広告をネットで行っているだけでは今までとパラダイムが変わるわけではないので、あまり意味が無いと思いますよ。今までの広告枠の論理の延長線上にあり、広告枠をOOHからWeb上のバナーにプラットフォームを変えただけになりますから。

網野:

確かにそうですね。広告枠の議論で、それがリアル上の空間からWebと言うデジタル上に変わっただけでは何も本質的な変化は起こっていないですからね。消費者にダイレクトにストーリーを伝える取り組みとしてのデジタルマーケティングで何か良い事例などはありますか?

関:

これはアクセンチュアの事例ではないですが、Doveの取り組みで「you are more beautiful than you think」と言うメッセージを伝えるYouTubeの動画があります。
https://www.YouTube.com/watch?v=XpaOjMXyJGk

メッセージは自分の表現よりも他人の評価の方が高いと言うことで、広告ではなく、「女性にもっと自分を美しいと思っていいんだよ」というメッセージに、うまくファクトとエクスペリメントを乗せてストーリーとして伝えていると思います。再生回数は6,000万回を超えていますよ。 この動画を全世界に配信し、需要を喚起しているという点で、もう立派なマーケティングです。商品の宣伝は一切していないから、宣伝や広告の類ではありませんが、良いストーリーだからこそ消費者の間で波及効果があったわけです。 デジタル化された世界だから企業が何か動画を発信していくという考えではなく、ダイレクトにストーリーを伝えて、消費者に理解してもらえるというところがデジタルマーケティングの原点だと思っています。

網野:

なるほど。確かにそこが原点であり、本質でもありますね。そういったことを少し履き違えてしまうといきなりテクニック論に走ったり、他社が動画を作っているから自社も作って再生回数を稼ごうなどの議論になってしまうわけですね。

関:

ダイレクトにストーリーを伝えるという観点にたてば、デジタルの世界だからこそリアルなイベントを行うということもあるわけです。つまり、Directに消費者と触れ合うために、リアルなイベントも必要だと思います。そういう点では、アンテナショップや、直接消費者と触れ合うイベントを行うこともオプションの一つになります。

網野:

消費者への全体のストーリーを考えれば、消費者へのダイレクトな接点の場がリアルなイベントであったり、アンテナショップでも意味があり、それもデジタルマーケティングと言えるわけですね。

関:

消費財業界であれば、テレビCMを大量に実施し、「これだけGRPを投下したので、この棚に陳列して下さい」というのが王道でしたが、今後は金の使い方はそこだけではないわけです。リアルに消費者に伝えたいメッセージがあるのなら、短期的な採算を度外視してでも、商品説明のプロや、消費を体験できる場を作って消費者に経験する場を提供する事も必要です。そのような体験がデジタルの世界で拡散されていくのです。いいものはリアルワールドでも、デジタルワールドでも拡散されます。

※GRP(延べ視聴率):一定期間に流したCM1本ごとの視聴率の合計。

網野:

リアルの世界でいいものを提供すれば、デジタルの世界で勝手に拡散されていくと言う構図ですね。昔はリアルな場で限られた人への訴求を行っても限定的な広がりでしたが、今はそういった取り組みが多くの人への普及につながることもありますよね。 大きな環境変化として、いいものは拡がっていくという時代になったからこその、デジタルマーケティングというわけですね。

(次号に続きます)

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