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ビジネスインテリジェンスツール(BIツール)がビジネスインテリジェンスをもたらしてくれるという誤解

AUTHOR :  網野 知博

ビジネスインテリジェンスツールは所詮ビジネス上のインフォメーションを提供するツールに過ぎない

「ビジネスインテリジェンスツールを導入したが役に立たないので、ツールを変えようと思っていますがどのソフトウェアが良いと思いますか?」と言う相談を受ける機会が増えています。目的により選定するツールが異なるのは当たり前なのですが、正直書きますとどのツールでも良いのでは無いか、と心のなかでは思っています。確かに目的にあった最適なツールと言うのはきっとあると思います。ですがビジネスインテリジェンスツールを導入して効果的な成果を出していない会社の原因はツールが自社に合っていないからではありません。

ビジネスインテリジェンスとビジネスインテリジェンスツールの違い

ビジネスインテリジェンスツールがビジネスインテリジェンスをもたらしてくれるという誤解を持たれている方が未だに多いようです。

そもそもビジネスインテリジェンスとは何でしょう。詳細はこちらの記事を読んで頂くとして、簡単に書きますと「ビジネス・インテリジェンスはビジネス判断を可能とするまでに分析されたインフォメーションであり、意思決定をすることが目的」ということになります。

そして、そのビジネスインテリジェンスを作成するための分析部分を担うツールがビジネスインテリジェンスツールになります。こちらも詳細はこちらの記事を参照下さい。

ビッグデータと言うバズワードが出てから、大量なデータを機械が勝手に分析してくれて、意思決定につながる答えを勝手に出してくれて、そのまま意思決定につながるという幻想を抱いている方々がいらっしゃいます。確かにビッグデータを活用する業務領域によっては機械学習により出されたアウトプットをそのまま意思決定に活用する場面も存在します。ですが、経営に関わる意思決定は例えビッグデータを高度な分析手法で分析してアウトプットを出しても、その結果を解釈なしにそのまま意思決定に使えることは滅多にありません。残念ながら「ビッグデータ」は魔法の言葉ではありませんし、機械学習は夢の技術ではないのです。

同様にビジネスインテリジェンスツールもツールから得られる分析結果と、分析結果から解釈して作られるインテリジェンス、そのインテリジェンスをもとに意思決定を行うプロセスは分けて考える必要があります。

寓話から考えるビジネスインテリジェンス

ここである小話を使ってビジネスインテリジェンスを考えてみましょう。(寓話の内容は多少差別的であり全く気に入りませんが、分かりやすい小話なため使わせて頂きます。)

   ある靴のメーカーがアフリカに進出しようと2人の調査員をアフリカに派遣しました。その中のAから連絡が入りました。

「社長!だめです。誰も靴を履いていません。」

 その直後、もう一人のBから連絡が入りました。

「社長!大市場です。まだ誰も靴を履いていません。」

 このBさんはアフリカ市場で大成功し、会社に大きく貢献しました。

これはセールスマンのポジティブ思考を比喩した寓話ですが、実はこの小話にビジネスインテリジェンスと意思決定の本質が含まれていると思います。

ビジネスインテリジェンスツールが教えてくれるのは「アフリカでは誰も靴を履いていない」と言う分析結果です。(ビジネスインテリジェンスツールはマーケットリサーチ結果ではなく、自社の取引などのデータを収集分析するものですが、いったんここでは分析された結果と言うこととして代替します。)

あなたが社長だとしたら、「アフリカでは誰も靴を履いていない」と言う分析結果を持ってどのような意思決定を行うでしょうか。もしくは、あなたが経営企画の担当だとしたら、この「アフリカでは誰も靴を履いていない」と言う分析結果を持ってどのような提言を社長に行うでしょうか。

分析結果から意思決定につなげるまでには、分析結果を解釈してビジネスインテリジェンスにし、そのビジネスインテリジェンスをもとに意思決定していくことになります。

「アフリカでは誰も靴を履いていない」と言う分析結果に対して、「今後も期待できるマーケットサイズにはならないから参入は見送る」と言う解釈と意思決定があります。また、「(今後は伸びるだろうが)今は期待できるマーケットサイズでは無いから現時点の参入は見送る」と言う解釈と意志決定もあるでしょう。「今は全く期待できるマーケットサイズではないが、生活の近代化とともに靴を履く人が増えマーケットとしては十分に期待できるサイズに成長すると想定され、そのためにも今から参入を行おう」と言う解釈と意思決定もあると思います。つまり、この分析結果だけでは自動的に意思決定につながることはありません。意思決定の多くは分析結果を踏まえて過去の経験や知識を踏まえてアブダクションを行います。つまり、インフォメーションの集合体からインテリジェンスに昇華させています。

靴メーカーである自社のプロダクトがハイエンド向けの高級品であれば、「マーケットが完全に立ち上がってGDPが☓☓ドル以上になってから参入しよう。よって今は参入せずに静観し続けるが、マーケットは注視しておく」と言う判断になるかもしれません。また、低価格を展開するメーカーなら、「まだ誰も靴を履いていないタイミングから参入し、靴という固有名詞が自社ブランドの名称として言われるようにしていこう。(例:コピー=ゼロックス、宅配便=宅急便)」と言う判断もあると思います。

世の中の意思決定はその分析結果だけを使って意思決定することは少なく、その他の定量・定性の情報を加えてアブダクションすることでビジネスインテリジェンスになっていくのです。

寓話における調査結果をビジネスインテリジェンスツールから得られた結果に置き換えるのは少し強引ではありましたが、それでも分析結果を解釈して使うのは当たり前であり、言い換えれば分析結果を解釈なしで使うことはありえないと理解頂けるのではないでしょうか。ビジネスインテリジェンスツールは分析結果をレポートなどの帳票として出力するだけのもの、その分析結果から本当のビジネスインテリジェンスに転換するためには、人間の解釈が入ります。

ビジネスインテリジェンスツールが成果を生まない原因

このように整理するとビジネスインテリジェンスツールを入れたのに全く役に立たないという場合は2つパターンに集約されます。ひとつはそもそもツールを使いこなして適切な分析結果をだせないというものです。分析結果がでないのですから、解釈しようもありません。

二つ目は、分析結果をアブダクションしてビジネスインテリジェンスに昇華させないといけないという事実に気づいていない、もしくはビジネスインテリジェンスに転換させるアブダクション的なスキルがない、と言うことになります。

「ビジネスインテリジェンスの成果が出ないのでビジネスインテリジェンスツールを変えよう、新たに購入しよう」という皆様は冷静に振り返って見てください。成果がでないのはビジネスインテリジェンスツールが原因なのでしょうか?それとも・・・

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