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ビジネスインテリジェンスで成果を生むための「データをアブダクションする力」

AUTHOR :  網野 知博

データ分析の基礎となる推論の「演繹」「帰納」「アブダクション」

「ビジネスインテリジェンスツールがビジネスインテリジェンスをもたらしてくれるという誤解」と言う記事で、ビジネスインテリジェンスツールは所詮ビジネス上のインフォメーションを提供するだけであり、そのインフォメーションをアブダクションして、ビジネスインテリジェンスに替え、そして意思決定につなげていかないと成果にはつながらないという話を寓話を例に紹介しました。

弊社ではこのデータをアブダクションする力こそがデータ分析結果(アウトプット)を成果(アウトカム)につなげるものであると考えています。このデータをアブダクションする役割を弊社ではデータアーティストと呼んでおります。

今回のテーマは「データをアブダクションする」と言う行為に関して説明をして行きたいと思います。まずは前編で「アブダクション」に関して私なりの説明しまして、後編でビジネスの場でデータをアブダクションする例を紹介したいと思います。

推論とは何か?

そもそも推論とは何でしょうか。本編の主人公である「アブダクション」に関して紹介されている良書「アブダクション 仮説と発見の理論」からの引用を基に説明したいと思います。

「推論」は「前提」と「結論」からなる。

「前提」とは「推論」の根拠となるあらかじめ与えられている知識や情報やデータ。

「結論」とは与えられた知識や情報やデータを論拠にして下される判断。

「推論」はいくつかの前提(既知のもの)から、それらの前提を根拠にしてある結論(未知のもの)を導き出す、論理的に統制された思考過程のこと。

前提から結論を導き出す際の、その導出の形式や規制とか、推論の前提がその結論を根拠づける論証力の違いによっていくつかの種類に分類される

論証力とは必然的か概念的かで判断。

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科学的論理的思考を形成する3つの推論

「アブダクション 仮説と発見の理論」の中ではその推論に関して、やり方が大きく3タイプあり、それが「帰納(deduction)」「演繹(induction)」「アブダクション(abduction)」があると言うことです。

(※参考までに、推論の方法には前提から結論を導き出す際の、その導出の形式や、推論の前提がその結論を根拠づける論証力の違いによって、”いつくかの種類に分類される”と記載されています。論理学の世界では主に「演繹」と「帰納」に大別されるからでしょう。本記事では論理学の絶対的な正しさを説きたいわけではなく、ビジネス上で役に立つ論理的な思考過程を紹介したいという事を前提にしていますので、個人的に非常にしっくりきている「演繹」「帰納」「アブダクション」と言う3つの推論をベースに話を進めていきます。これから書いている推論も私なりの解釈に基づく思考過程ですので、正確な論理学や「演繹」「帰納」「アブダクション」を学びたい方は学術書を読まれることをおすすめします。)

「帰納」「演繹」と言う言葉を聞いたことがない人はいないと思います。中学生の際に、「帰納法」「演繹法」「三段論法」などを授業で習った記憶はあると思いますが、「アブダクション」と言う単語自体を聞いたことがある人はそうは多くはないのではないでしょうか。「アブダクション」とは、この「帰納法」「演繹法」と並ぶ推論の方法論と考えられています。「アブダクション」だけが漢字をあてがわれず、カタカナ訳のままというものなんとなくマイナーな感じを与えます。笑

「演繹」「帰納」「アブダクション」に関する説明も「アブダクション 仮説と発見の理論」より紹介したいと思います。

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アブダクションはアメリカの論理学者チャールズ・パース氏が「科学的論理的思考には演繹、帰納のほかにアブダクションと言う思考方法がある」と提唱したとのことに端を発しているようです。

実はアブダクションは帰納の一種ではないかという議論もあるようですが、私は論理学者ではなく、ビジネスパーソンなので、アブダクションと言う思想が論理学的に正しいか否かに関しては全く興味がありません。ですが、アブダクションと言う思考過程やその結論を導くアプローチに興味を持ち、またデータを分析してアウトカムにつなげる過程において、頭を整理するのに非常に有益な考え方と捉えています。

推論には、「分析的推論」と「拡張的推論」があり、分析的推論は演繹、拡張的推論は帰納とアブダクションと言う切りになっています。今回は論理学のお勉強ではないので、さわりだけの紹介にしますが、分析的推論は前提の内容を解明するために用いられるものに対して、拡張的推論は結論は前提の内容以上のことを主張することになります。「分析的推論」と「拡張的推論」は演繹と帰納の考えを整理するとご理解頂けると思います。

演繹的推論:

明確な形式的構造を有する。真なる前提から必然的に真なる結論が導かれる。つまり、経験から独立に成り立つ形式的必然的推論。

前提1:人間は生き物である。

前提2:生き物はみな死ぬ。

結論:人間はみな死ぬ。

帰納的推論:

経験にもとづく蓋然的推論。(※蓋然的:ある事柄が起こりうると考えられるさま。ある程度確かであるさま。)

前提から論理的に誘導されるわけではないが、前提に対してなんらかの”確からしさをもつと考えられる主張”を前提から結論として引き出す操作。帰納は経験的知識を拡張するために用いられる推論。

前提1:人間Aは死んだ。

前提2:人間Bは死んだ。

前提3:人間Cは死んだ

結論:人間はみな死ぬ。

帰納とアブダクションの違い

ではやっとここでアブダクションについて説明したいと思います。ここから先は「アブダクション 仮説と発見の理論」からの引用を中心に行います。

三段論法を用いた「演繹」「帰納」「アブダクション」

演繹

1.この袋の豆はすべて白い、(規則)
2.これらの豆はこの袋の豆である、(事例)
3.ゆえに、これらの豆は白い。(結果)

白い豆だけが入った袋があるとして(1)、この袋からいくつかの豆を取り出してみると(2)もちろんこれらの豆は全て白い(3)。

帰納:

1.これらの豆はこの袋の豆である、(事例)
2.これらの豆は白い、(結果)
3.ゆえに、この袋の豆はすべて白い。(規則)

豆がいっぱい入った袋がここにあって、その袋の中の豆がそんな色か知りたいとき、その袋の中から例えば手一杯の豆をサンプルとして取り出して調べてみたら(1)、それらの豆は白かった(2)、ということから、この袋の中の豆は全て白い(3)と結論つけている。
つまり、帰納は部分(サンプルとして取り出した手一杯の豆)に関する情報に基づいて、その部分が属する全体について、この袋の豆は全て白いと言う一般化を行っている。

アブダクション:

1.この袋の豆はすべて白い、(規則)
2.これらの豆は白い、(結果)
3.ゆえに、これらの豆はこの袋の豆である。(事例)

ここに幾粒かの白い豆がこぼれていて(2)、この豆がどこからこぼれたのかわからない時、その近くにある袋の中の豆が全て白いことに気づいて(1)、これらの豆は多分この袋からこぼれたものであろう(3)と推論する。

おさらいすると、帰納は観察データにもとづいて一般化を行う推論、アブダクションは観察データを説明するための仮説を形成する推論、ということになります。

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帰納とアブダクションの使い分けがデータアーティストの鍵

さて、非常に前置きが長くなりました。やっとここからデータ分析の話になります。実はこれらの説明はデータを読み取るときに非常に役に立つ思考過程だと思っています。詳細は次回説明しますが、今回は思考過程パターンだけを紹介しておこうと思います。

データ分析を行い、統計的に算出された結果であるインフォメーションをそのまま活用していく場合は帰納的推察を利用していると言えます。機能法的推察にて出された結論を、演繹的推察の前提と捉えて、その前提を元に、施策となる「結論」を検討していきます。つまり帰納⇒演繹にてインテリジェンスを行う。

一方で、データ分析を行い、統計的に算出された結果であるインフォメーションに対して解釈を行い、(つまりデータをアブダクションして)、そのインフォメーションが起こっている前提を仮説として形成していくアプローチがアブダクション的推察になります。そのアブダクションした前提を元に、演繹的に結論と導き出す、つまりインテリジェンスに変えていくという流れになります。

「因果」と「相関」を「帰納⇒演繹」「アブダクション⇒演繹」で代替してみる

”データ分析あるある”ですが、「因果」と「相関」に関してよく議論がされると思います。「ビッグデータ時代は因果の解明なんて無視して、分析結果を信じて実行してPDCAを回してしまえ。」と言う相関主義者と、「相関の結果を読み取って、因果を解明しないと正しいPlanは作れない」と言う因果主義者です。実は「因果主義」と「相関主義」もインテリジェンスにつなげるまでのプロセスの話であり、つまり思考過程が「帰納⇒演繹」なのか、「アブダクション⇒演繹」なのかだけであると捉えています。よって「両方とも有用」というのが個人的見解です。両方とも有用だが、使い場所と使い方が違う、ので選択して使えば良い、と言うのが最強かと。

次回は事例も踏まえて「帰納アプローチ」と「アブダクションアプローチ」に関する話をして行きます。

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