オムニチャネルの本質は、接客競争(日経デジタルマーケティング 2014年9月号)/ニュースななめ斬り by ギックス

AUTHOR :  田中 耕比古

「競争力の源泉」は、決してブレさせてはいけない

本日は、日経デジタルマーケティング2014年9月号の「オムニチャネルの本質は、接客競争|インタビュー記事:キタムラ 執行役員EC事業部長 逸見光次郎氏」をななめ斬ります。

記事概要

  • カメラ専門店「カメラのキタムラ」では、2年前からオムニチャネルを最重要課題と位置付けている
  • 店舗にタブレット端末を配置し、詳しい商品情報や周辺機器情報を迅速に提供できることに加えて、在庫取り寄せ及び納期確認などをその場で行っている
  • また、消費者がアクセスできるECサイトにも、在庫や納期の情報を「タブレットと同じレベル」で公開している
  • 顧客と店員が、同じ情報を持ったうえで、商品へのより深い理解・知識を付加することがキタムラの価値
  • その価値ゆえに、キタムラは、通常のEC売上(13年実績146億円)よりも、店舗で商品を受け取る「店受け取り」が多い(同 289億円)
  • 商品受け取りのために来店してもらえれば、その場で「下取り提案」などもできる=接客力によって商機も増えるし、価値提供も強まる

自社の「競争力の源泉」を知ることから始めよ

この記事のタイトル「オムニチャネルの本質は、接客競争」というのは、一般的な話ではないと僕は思っています。つまり、キタムラという会社において、オムニチャネルの本質が接客競争である、というお話だと理解しています。

言い換えると「自社の強み」を最大限に活かすことが勝利の鉄則、ということです。

宅配ピザ屋さんの「オムニチャネル」で考えてみる

例えば、宅配ピザのお店で考えてみましょう。宅配ピザのウリは「どこにでも、すぐに、温かいピザを届けてくれる」ということです。

宅配ピザの主要な販売チャネルは電話です。最近は、web経由(モバイル含む)での注文も可能ですが、主力はまだまだ電話でしょう。もちろん、お店に行って注文することもできると思います。

一方、その納品ルートの主力は当然ながら「宅配」です。そんな中、最近では店舗受け取りも推進する動きがあります。

これは、サービス提供側から考えると非常に当たり前のことです。限られた人員でオペレーションを回している中で、店舗に取りに来てくれれば、その分の人件費が浮きます。1件配るのに片道10分かかるとした場合、時給1,000円として、人件費が333円かかりますね。また、その人が運ぶ間は、他のお客さんからの注文への対応が滞ります。また、生産能力の上限を注文が上回ってしまう、ということは比較的少ないだろうと考えると、店頭受け取りならピザ半額、としても十分ペイしてしまう(つまり、余剰な店内労働力で生産しつつ、逼迫しがちな宅配労働力は温存できる)だろうと想像されます。

しかし、立ち返って考えると、このサービスは、宅配ピザのウリである「どこにでも、すぐに、温かいピザを届けてくれる」というものとは対極に位置します。利用できる客は、近くに住んでいる・勤めている人や、車などで近くを通る人です。「どこにでも」というウリは損なわれています。また、雨の日などに出歩かなくても良い、というメリットも失っています。

もちろん、だからダメだ、ということではありません。違う層の顧客を捉えているので、補完関係にあって良いじゃないか、と思います。

では、宅配ピザ屋さんが「自社のウリ」を最大限に生かしたオムニチャネルの実現とは、どういうサービスなのでしょうか。

その一つの好例が「お花見会場への訪問販売」です。お花見会場に、宅配ピザのバイト君がチラシを配りに来ている(もしくは、その場で注文を受けている)のを見たことがありませんか?あれは「待ちの営業から攻めの営業への転換」を意味します。また、同じタイミングで複数の注文を取れれば「配送の効率化」にもなります。

つまり、ピザ屋におけるオムニチャネルの本質は、接客競争ではなく、「生産キャパの最大活用」「配送人員の効率性向上」ということになります。

自社を知ることが戦略立案の第一歩

ギックスでは、UVP(Understandable Value Proposition=顧客の肚に落ちる提供価値)という概念を提唱しています。

自社のUVP、ひらたくいえば「ウリ、強み」、言い換えれば「競争力の源泉」を明確にすることによって、自社が、誰に対して、どういうサービスを提供するべきかが定まります(= Headshot Marketing)。これは、今回例にとったオムニチャネルに限った話ではなく、あらゆる戦略策定を行う際に最初に考えるべきポイントです。

よく「マーケットを知ろう」などと言いますが、そもそも自社の事をキチンと理解しないで「そこに市場があるから攻めてみよう」というのは、子供のサッカーと同じで”戦略が無い”状態です。ボールがあるから、そこにみんな集まる、という無計画で無秩序な状態です。

このような状態に陥ると、”オムニチャネル”などのトレンドワードに踊らされて、実際には思考停止をしてしまうケースが多いのです。一度立ち止まって、自社について見返す、ということを意識するように心がけるべきではないでしょうか。何らかの「ブレない軸」を持たないと、組織のベクトルも揃いません。前述のUVP/Headshot Marketingの思想は、そのための一助となると思います。

ちなみに、例えば、自社の強みは「資金力」だ!、という割り切りがあるのならば、100発撃てば1発あたるかも、に賭けて、美味しそうにみえるマーケットをしらみつぶしに攻めてみるというのも、まぁ、そんなに悪くない選択だとは思いますよ。いや、ほんとに。(美意識の問題は、また別のお話ですけれども)

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