第1章「新任マネジャーはなぜつまずいてしまうのか」優秀なプレイヤーほど苦労する|ハーバードビジネスレビュー マネジャーの教科書/ギックスの本棚

AUTHOR :  田中 耕比古

誰だって、最初は新米だ。

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以前、ハーバードビジネスレビューBEST10論文の読み解きを行いました。この読み解きは、非常に学びが深く(当ブログの読者の皆さんにとっての学びが深いかどうかは僕にはわかりませんが、読み解いた僕自身にとって極めて学びが深かったんです)、良い取り組みだったなと自画自賛することになった連載でした。

実際、2014年に発売された書籍そのものも非常に素晴らしく、まさしく学びの宝庫でした。こりゃ、最高の一冊やん、と思っていたところ、やはりダイヤモンド社もそう思ったようで、2017年に本書マネジャーの教科書を発売し、その後、マーケティングの教科書リーダーシップの教科書コミュニケーションの教科書営業の教科書意思決定の教科書、と大量の続刊が発売されました。

今回は、そのシリーズ(教科書シリーズ)における最初の一冊にあたる「マネジャーの教科書 ~ハーバード・ビジネス・レビュー マネジャー論文ベスト11~」をとりあげて、読み解いていきたいと思います。

ちょうど、本日が4/1ということで、あらたにマネジャー職に昇進した、初めて部下を持つ、というひとも多い事でしょう。そんな方にとって、この連載が何かの助けになればよいなと思っています。

なお、HBR ベスト10論文が、僕の得意とする経営戦略領域の論文主体の一冊だったことに対して、こちらは、どちらかというと専門外の領域である「チームマネジメント」のお話なので、前回に比べて僕のテンションが低めになることが予想されますが、なにとぞご容赦頂ければと存じます。(基本的に、一匹狼タイプで、チームプレイが不得意なんですよね。僕は…)

それでは、まずは一本目。リンダ A. ヒル氏による「新任マネジャーは なぜつまずいてしまうのか」です。

新米マネジャーに捧げられた論文

どれほど才能に恵まれていようと、リーダーへの道は学習と研鑽の連続であり、果実は艱難辛苦の末に得られる。その最初のハードルは、初めて部下を持った時に訪れる。当たり前だからであろうか、誰も気に留めない。全く残念なことだ。なぜなら通過儀礼の一つとはいえ、ここでの試練が本人と企業、それぞれの行く末に決定的な影響を及ぼすからである。

まるで小説の導入部分であるかのようなセンテンスで始まるこの論文、原語ではいざしらず、翻訳した方のセンスを感じます。一匹狼を気取っていた若手ギャングが、無理やり新入りを部下につけられた任務で失敗したストーリーが続いてもおかしくないですよ、これ。

さて、そんな魅惑的な書き出しのこの論文で説かれるのは「新任マネジャー」について、です。

基本的に、新任だろうとベテランだろうと、他者をマネジメントするということについて絶対的な正解なんてものは無いのですが、新任は「成功体験も失敗体験もない」わけですから、まぁ、手探りになりがちだよね。というお話です。

それを踏まえたときに、新米マネジャーに対する警句を教えよう、というお話です。素敵。折角なら10年くらいまえに読みたかったわー、と言言いたくなる僕ですが実はこの論文、2007年3月のハーバードビジネスレビューに掲載されてます。要するに、僕が不勉強だっただけです。すみません。

マネジャーは一日にして成らず

マネジャーに任命されました。はい、あなたは今日からマネジャーです。名刺にもそう書いてあります。

確かに、そうです。肩書としてのマネジャーには、ある日突然なるわけです。が、しかし、マネジャーとしての役割を、その日からしっかり果たせるようになるわけがありません。

また、状況をさらにややこしくしているのは、多くの場合「プレイヤーとして優れていた社員」が「マネジャー職に昇進する」ということです。

昇格して一か月後、彼は焦りに焦った。自分の構想をそのまま実行することが、想像していた以上に難しかったからである。(中略)

花形と呼ばれた社員たちはミスを犯した経験が乏しく、道を失ったり、迷ったりすることにまったく馴染みがない。しかも、試行錯誤にはストレスがつきものである。また、「いままさに学習している」とはたと気付く新米マネジャーなどほとんどいない。なるほど、学習は漸進的にゆっくりと進んでいくものだ。

何よりもツラいのが優秀なプレイヤーだった人は、優秀じゃないプレイヤーのことを理解できないんですよね。それに加えて、プレイヤー時代には「無能な同僚は蹴落として構わない」というスタイルだった人が、マネジャーになったとたんに「玉石混合チームを率いて成果を出せ」と言われても、パフォーマンスを発揮できるはずがありません。

5つの誤解

この論文では、新米マネジャーが陥りがちな5つの誤解がある、と解説します。それは・・・

  1. 管理職の権威は絶対的なものである
  2. 管理職の権威を過大視する
  3. 統制しなければならない
  4. 部下一人ひとりと良好な人間関係を築かなければならない
  5. 何よりも円滑な業務運営を心がける

すさまじくざっくり(僕の理解で)説明しますと、

誤解1: 管理職の権威は絶対的なものである

新米マネジャーは「最下層の管理職」に過ぎないため、さらに上位の管理職の権威にさらされている。さらに、自分の部下を代表して、直接の上司や他部門の上長たちと交渉していくことが求められるため、基本的なスタンスが「最下層であらがい続ける人」になってしまう。

誤解2: 管理職の権威を過大視する

確かに権威は存在するが、優秀な部下ほど、上司の言うことを聞かない。新米マネジャーもプレイヤーだった時には、上司に歯向かっていたりもする。権威を実のあるものにするためには、部下・同僚・上司から”信頼”を勝ち得ることが必要。最初から権威が与えられるわけではないので、自ら権威を持つために「まっとうな行動」をとる人物だと周囲に示すことが大切。

誤解3: 統制しなければならない

統制しようとしても、うまくいかない。権威による服従が自発的なやる気に勝ることはない。部下が主体性を発揮できるようにすることが肝要。

誤解4: 部下一人ひとりと良好な人間関係を築かなければならない

1 vs 1 のコミュニケーションで対処しようとしても、全体最適にはつながらない。得られる情報が断片的なのに、その場その場で意思決定するのは、チーム全体にとってはネガティブな影響につながってしまう。プレイヤーとして優秀だった人ほど組織文化の重要性に対する理解が浅いが、規律と価値観の醸成が極めて大切だと認識する必要がある。

誤解5: 何よりも円滑な業務運営を心がける

マネジャーは遂行するひとではなく、変革する人(チェンジエージェント)であるべきだ。職掌の範囲内であろうとなかろうと、自分のチームの成功に向けて改革を起こす義務を負っているのだ。業務運営のために、言われたことだけやっているのは、マネジャーではない。

上記5つの指摘は、いずれも「さもありなん」って感じですね。

新米マネジャーへのアドバイス

では、そんな誤解にまみれた新米マネジャー君は、いったいどうすればいいのでしょう。本論文でのアドバイスは極めてシンプルです。

「上司に相談しなさい」

上司に甘いとか浅はかだと思われて、評価がさがったらどうしよう。怒られたらどうしよう。そういうことで相談をためらう人もいるでしょう。しかし、迷える新米マネジャーが上司と良好な関係を築くことが、事態を一変させる、と、本論文は主張します。

上司は敵ではありません。同じ成果を求める仲間です。

新米マネジャーの成功を手助けすれば、その恩恵にあずかれるのは当の本人だけでない。彼ら彼女らを成功に導くことは、企業の成功にも決定的に重要なのである。

上司は、かつて新米マネジャーでした。そして、おそらく、その前に優秀なプレイヤーだったこともあるでしょう。彼らは、新米マネジャーがぶつかった壁を熟知しています。そして、それを乗り越えた経験を持っています。彼ら(もしくは彼女ら)の知見をうまく引き出し、自らの成長、そしてチームの成果を実現することがマネジャーとしての最初の一歩でしょう。先達はあらまほしき哉、ですよ。

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