第3章「新人マネジャーを育てるコーチング技法」マネジメントのDNAを受け継いでいけ!|ハーバードビジネスレビュー マネジャーの教科書/ギックスの本棚

AUTHOR :  田中 耕比古

「新人マネジャーは自然に成長したりしない」

本日は、キャロル A. ウォーカー氏の「新人マネジャーを育てるコーチング技法」を読み解きます。

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新人マネジャーは苦労する

この論文では、新人マネジャーを、いかにして苦境から救い上げるか、に関して述べられます。

そのために、新人マネジャーの特徴、言い換えれば、新人マネジャーが陥りやすい苦境について、以下の5つが提示されます。

  • 新人マネジャーの特徴1.部下への権限移譲をためらいがちである
  • 新人マネジャーの特徴2.上司の支援を仰ごうとしない
  • 新人マネジャーの特徴3.意識的に自信があるように装うことができない
  • 新人マネジャーの特徴4.部分ばかりに拘泥し全体が見えない
  • 新人マネジャーの特徴5.部下へのフィードバックをためらう

この見出しを読むだけで、かれこれ干支がくるりと回るくらい前のあの頃、初めてのマネジャーロール(プロジェクトを率いる役目)で死にかけた自分を思い出します。(なお、胃に穴をあけて戦線離脱したので、死にかけたの程度感としては「5%くらい」でしょうかね。)

コンサルだということで、4.5.のあたりは、比較的得意だったと思うのですが、1.2.は非常に難しく(なんなら今でもできてないかも)、3は「やらねば」と思いつつ「うまくできない」という課題認識を抱えていました。今となってはいい思い出ですが、当時は本当にきつかったなぁ・・・(遠い目)

要するに、「みんな同じようなところでつまづいてるんだから、悲観することないよ」ということですね。そうなんです。最初からパーフェクトな奴なんていない。みんな苦労して成長するんだ!そうだそうだ!

すみません。取り乱しました。気を取り直して、この5つの特徴とそれに対する上司が行うべき対策について、少し詳しく見ていきましょう。

1.部下への権限移譲をためらいがちである

プレイヤーとして優秀であればあるほど、マネジャーになったときの「自分の貢献価値」について思い悩むことになります。それまでは個人の成果で勝負していたものが、突然、チームの成果で勝負することになるわけですので、うまく切り替えられないのも無理はありません。

そして、その切替がうまくいかないと「部下が大きな成果を上げることに対する不安」を抱えることになり、ひいては、部下を過剰に管理したり、上司と部下の直接的なコミュニケーションに介入したりしてしまいます。結果、部下はネガティブな感情を抱き、チームの生産性は低下します。

これに対する対策は、以下です。

若輩のマネジャーに権限移譲を効果的に進めさせるには、彼らの新しい役割を認識させることだ。新しい任務は、個人的に成果を上げることと根本的に異なるという認識を植え付けさせるのだ。次いで、上司や会社がリーダーのどのような点に価値を置いているのかを明確にする。(中略)定量的な目標を達成することに加えて、なかなか目に見えない努力もきちんと評価されることを、新人マネジャーに理解させるのだ。

しかしながら、この引用文に続く次のセンテンスが、問題の根源です。

いずれにしても、この新しい役割を理解することが新人マネジャーには難しい。にもかかわらず、多くの企業が「そんなことは端から承知のはずだ」と考えがちなのである。

マネジャーとして果たすべき職務・役割を丁寧に説明し、理解させることが極めて大事なのです。「きっとわかっているだろう」では危険です。

2.上司の支援を仰ごうとしない

また、新人マネジャーの多くは「期待されている」という意識から、上司の支援を仰ぐことをしません。支援を仰ぐことが、即ち「敗北」という意識があるのでしょう。

さらに状況を難しくしているのが、上司との関係性を「パートナーシップ」ではなく「師弟関係」に近いものとして捉えてしまうことです。

師匠の指示を待ち、師匠の教えを受けることを望んでいる上に、自らの失敗を伝えて信頼を失うのは避けたい。そういう状況では、如何に優秀な人でもパフォーマンスを出しにくくなります。

それに対する対処法のヒントとなるのは

問題は、上司と言うあなたの地位のせいで、新人マネジャーが委縮しているというだけでなく、彼らがあなたに弱みを見せることを恐れていることなのだ。マネジャーになりたての人は、あなたに弱点を知られたいはずがない。昇進させたのは失敗だったとは思われたくないからだ。

という一文です。これを踏まえた「上司がとるべき対策」は

  • 新人マネジャーの成功=自分(上司)の成功である
  • 全てにおいて満点を期待しているわけではない
  • 定期的にコミュニケーションをとりたい

これらのことを、しっかりと新人マネジャーに伝えることです。尚、最後のコミュニケーションについては、

はっきりさせておくべきは、ミーティングが新人マネジャーのために開かれ、話の内容も彼らが決めるということである。あなたの役割は、質問を投げかけたり、質問に答えたり、そしてアドバイスしたりというものになる。その際に送るべきメッセージは、新人マネジャー諸君の仕事はあなたにとって重要であり、あなた自身がビジネスパートナーとしてコミットメントを惜しまないということだ。

3.意識的に自信があるように装うことができない

部下からも、顧客からも、そして上司からも、しっかりと信頼を得ないことには、マネジャーの役割は果たせません。そのためには「自信がある」という風に、周囲が認識してくれることが大切です。

新人マネジャーは、自分のことで手いっぱいです。周囲からの見え方について、考えることさえできません。しかし、人の印象は、数週間・数か月という極めて早い時期についてしまいます。一度ついた印象は、なかなかぬぐえません。

これに対する対策は、”適切なフィードバック”です。先述した2の対策にあった「定期的なコミュニケーション」の中で、「周囲からどのように見えているのか」「それが、どういう影響を与えているのか」「どのようにふるまうと、物事がうまく進むか」というあたりを伝えていくのが良いと思います。

4.部分ばかりに拘泥し全体が見えない

これも、優秀なプレイヤーこそ陥る現象ですね。高い実務能力で仕事をこなし成果を上げてきたからこそ、中長期的に考えるとか取り組み方の構造そのものを変化させるとかいうことに、リソースを割けないのです。

しかし、マネジャーの本分は「組織・事業を成長させること」です。決められた方針に則って、うまくやり遂げることは尊いのですが、それはプレイヤーの仕事です。従って、

シニアマネジャーは「昇進には戦略思考が欠かせない」ことを、新人マネジャーに諭すべきである。初めて管理者になったものならば、10%の時間を戦略に、残りの90%を実務にといった具合だ。地位が上がるにつれてその割合は逆転していく。次の段階で成功するには、マネジャーは戦略的に思考し、行動できなければならない。

新人マネジャーの場合、目標よりも活動に目が向きがちである。(中略)シニアマネジャーは、新人マネジャーに戦略思考を身に着けさせるよう手を差し伸べなければならない。その際、文書によって目標とその実現に必要な活動を区別させたりすると良い。目標を設定することの重要性を絶えず言い続けることで(中略)作戦計画を戦略的に立案できるようになる。

ということが需要になります。アクションプランの明確化・言語化が鍵でしょう。

5.部下へのフィードバックをためらう

最後が、部下へのフィードバックです。

部下の問題を指摘する、というのは非常に難しいことです。特に「チームで成果を出す」というマネジャーの目指すゴールに向かうに際しては、部下がパフォームしなくても問題だし、部下が機嫌を損ねてしまうのも問題です。

これに対しては、

大事なのは「部下が目標を達成できるよう何かしたい」という気持ちを、新人マネジャーの中に育ませることだ。

シニアマネジャーは、難しいテーマを議論するための話法についても、可能な限り伝授すべきである

というアドバイスが為されます。確かに有用なのですが、僕の個人的見解としては、これは「目的の共有化」に尽きると思うんですよね。同じ方向を向いて進んでいるならば、フィードバックは常に「上司から部下への伝達」ではなく「進んでいるベクトルからのズレ」になるはずです。上司は、自分の意見を押し付けてくる存在ではなく、そのベクトルの代弁者という立ち位置を取るべきです。

そうすれば、無用なハレーションを防ぐことができます。(僕たち、コンサルタントという存在が、クライアントに対するのも、ある意味では同じだと思うんですよね。)

みんな、最初は新人だったんだ

上記5つの特徴と、それに対する対策をご紹介しました。何か心に響くものがありましたら、是非、書籍を購入して、原典にあたっていただきたいと思います。

最後に、この論文の冒頭で為される問題提起をご紹介させてください。

多くの企業で「マネジメントスキルは段階的に習得されるもの」と考えられているせいか、新人マネジャーを静観し、事態の悪化を放置する。確かにそうかもしれない。しかし私の経験から言えば、そのように学習できる人はまれで、助けを必要としている人の方が多い。

まさに、これが問題なんです。そして、これを”組織全体の課題”であると認識し、体系的にトレーニングを行う”組織の文化”を醸成することが大切なんです。

例えば、特徴5でフィードバックの難しさに関して論考されたのに対し、特徴3への対策が「上司から新人マネジャーへの忌憚のないフィードバック」だったことを考えると、マネジメントに求められるスキルの連続性がみえてきますよね。

そもそも、新人マネジャーが「自然には育たない」ことに鑑みれば、部下も「自然には育たない」と考えるべきでしょう。己を知り、それと同様に部下を理解する。これが大切なのです。上司は誰かの部下であり、(多くの場合)部下は誰かの上司なのです。この入れ子構造を踏まえることが、人材育成の鍵だと僕は思います。

新人マネジャーが、上司(シニアマネジャー)に育成される過程で、自らが部下を育成していくための方法論を学ぶ。そういう風に持って行ってあげることが、組織力を向上させる梃子(てこ)なんじゃないでしょうか。

※この論文は、本書「マネジメントの教科書」の第一章「新任マネジャーはなぜつまずいてしまうのか」と非常に相通じる点が多いです。そちらも併せてご一読いただければと思います。

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