ギックスの本棚|ミライを変えるモノづくりベンチャーの始め方(丸幸弘/実務教育出版)

AUTHOR :  田中 耕比古

成功の確度を上げるためのノウハウが満載

ミライを変えるモノづくりベンチャーのはじめ方

本日は、友人であり、先輩経営者である、リバネスの 丸 幸弘(以降、著者)の新著「ミライを変えるモノづくりベンチャーのはじめ方」をご紹介します。(彼の著書「世界を変えるビジネスは、たった1人の『熱』から生まれる。」を以前、ぎっくすの本棚で紹介したこともあります。)

本書は、成功のレシピではない

さて、最初に本書について「ありがちな勘違い」を払拭しておきたいと思います。著者に聞いたわけじゃないので、彼が同意するかどうかは定かではありませんが、僕にとっては確信に近い思いがありますので、敢えて言い切りましょう。それは「本書は、ベンチャー立上げ成功のレシピではない」ということです。この本に書いてある通りに調理(ベンチャーの立ち上げ・運営)をしても、この本に書いてあるような料理(成功したビジネス)はできません。

この本を踏まえて、自分なりの戦い方を、自分の頭で考える人だけが、ベンチャー経営者になる資格があるのです。ええ。折角なんで、言い切っておきます。

一方で、本書の内容は、ベンチャーを立ち上げて5年ほど経営している僕にとっては、非常に共感できるノウハウが満載です。少なくとも リバネスと弊社(ギックス)というサンプル数 n=2 においては、間違いない真実だと言い切れます。(ユーグレナ等の本書に登場する企業については僕はそこまで詳しく存じあげないのでカウントしてません。あしからず。)

ですので、これらのノウハウが、実際に事業を立ち上げるに際して、なにがしかの役に立つのは間違いありません。安心してください!役立ちますよっ!ということで、ここからは、僕が共感したポイントをご紹介していきたいと思います。

創業はビジョンが大事

最初の共感ポイントは「創業にはビジョンが不可欠」というお話です。

この話の前提として「起業と創業は違う」という話があります。簡単に説明すると、

  • 創業=今までにないものを事業として「創る」
  • 起業=既存の事業を、新しく「起ち上げる」

ということになります。そして、本書のターゲットである「モノづくりベンチャー」は、創業になることが多い。と述べられます。

その上で、創業において大事なのはビジョンだ、と著者は断じます。(※なお、本書も、最初に創業と起業の違いを定義したのちは、「起業」という言葉で表現されます。本ブログ内でも、以降は、特別な意味を込める場合を除いては「起業」に表記を統一します。)

ビジョンとは、目指す状態のことです。多くの場合、特定の課題が解決された状態、と考えればよいでしょう。起業する場合には、このビジョンを設定することが大切だ。と本書では説かれます。ビジョンが定まっていないと、目の前の退屈な作業に倦んでしまう、というわけです。引用します。

やるべきことは「超」がつくほど地味だけれど、ゴールの夢が明確に描けていれば描けているほど、穴掘り作業も苦ではなくなるのだから不思議だ。残念ながら、ここがぼやけていると、掘りはじめたらすぐに「俺たち、何のために土なんか掘っているんだっけ?こんなことのためにベンチャーをはじめたのかよ?」と挫折してしまう。

弊社(ギックス)でも、まさに同じことを思っています。僕たちの用語では「ビジョン」と「ミッション」という言い方をしています。ビジョンは、最終的な到達点(ゴール)。ミッションは、そのビジョン実現のために僕たちがやるべきこと(歩く道筋)。です。

ギックスの場合「ビジョン=世界の考える総量を最大化する」、「ミッション=アナリティクスの速さと質を徹底的に究める」となっています。ビジョンは、ギックスが続く限り、変わることはないでしょうが、ミッションは変わる可能性があります。極端なことを言うと、ビジョンが実現できるやりかた(道筋)なら、なんでもいい(どの道でもいい)のです。例えば、「AIを徹底的に活用する」は、ミッションとして設定し得ますね。あと1-2年もすれば、汎用AIは無理だとしても、特定目的のためのAIが山ほど実用化されてきます。そのAIを業務にどうやって適用するかを考えることで、世界の考える総量増加に寄与できるなら、ミッションを「AI活用」と再定義するのも吝かではありません。

目的がビジョンであり、ミッションは手段にすぎないのです。本書から引用します。

丸「吉藤、お前は何がしたいの?ロボットでなくてもいいのか?孤独が解消されさえすれば、なんでもいいのか?」
吉藤「ロボットでなくても、孤独さえ解消できればそれでいい」

(中略)

丸「出雲、お前が本当にやりたいのは何なんだ?」
出雲「人類の食料と燃料の問題を解決したい」
丸「じゃぁ、ミドリムシでなくてもいい、ということだな?」
出雲「いまはミドリムシこそ最高の答えだと思っているけれど、ミドリムシを超える生きものが見つかれば、俺はその”超ミドリムシ”をやる」

まさに、これです。

その一方で、非常に大事なことがあります。それは「とはいうものの、ミッションが会社の事業領域を規定する」ということです。ビジョンは、皆の進むべき方向を規定しベクトルを揃えてくれます。しかし、それを掲げているだけでは、ビジネスは成立しません。そのビジョンを達成するための道筋こそが、会社の事業内容なのです。

繰り返しになりますが、だからといって事業領域を先に掲げるのはやめましょう。ビジョン=目的地を決めたうえで、そこに到達するための最善手・最適手を考えて、それを事業領域として据えるべきです。

関連記事:Vision(ビジョン)とは:会社を規定し、方向づけるもの|戦略用語を考える

創業メンバーを3人集めろ

続いての共感ポイントは、創業メンバーを3人集めろ、というものです。3人で創業すべしという話は、本書に限らず色々な本に書いてありますが、本書では、その意味合いが他書のそれとは異なります。

「3人の取締役」というと、「能力」に応じて仕事を分担するという意味にも受け取れる。しかし能力ではなく、ビジョンなのだ。毛利元就の「3本の矢の教え(三矢之戒)」の話を、僕は「3人の取締役」に置き換えて説明をしている。1人だけだと「もうこのビジョンはダメかな」と思う。2人でもやはり仲違いがあって志が折れてしまいやすい。けれども、3本の矢になってくると、

「え?おまえたち、最初の志はウソだったのか?」

といさめてくれる人がいる。

弊社(ギックス)も3名で立ち上げました。弊社が創業から5年経って、まだ生き残っているのは「3名で創業したから」だと思います。ちなみに、上記の理由も「ほんまそれな」なのですが、そもそも

創業メンバーが最低でも3人以上集まらなかった場合は、まだ起業してはいけない。

という言葉がシンプルにその重要性を伝えていると思います。っていうかね。「さぁ、事業やるぞ!」って言って、最初に自分以外に2人集められないなら、そのあと、10人20人という仲間を集められるわけないんですよ。僕も、「とりあえず一人で立ち上げて、徐々に仲間を集めます」という人とお会いした場合は、「いや、集めてから起ち上げたらダメなの?」って必ず聞きます。もしくは「一人でずっとやる、ということでも成立するビジネスなの?」という確認をします。もし、あなたのやりたいビジネスが複数人でやっていかねばならないビジネスならば、最低2人の仲間を見つけてから、3人で立ち上げましょう。これ、マヂ、重要です。

その他にも、「ベンチャーでは ”成長したい”という人を採用してはいけない」、「『負の習慣』を見直して、『正の習慣』に近づけよう」、「シロウトに近い人からいわれたちょっとした『こうだと思うんだけど、どう思う?』という一言をスルーしない」など、実践的な共感ポイントが沢山ありましたが、紹介していると終わらないので、この辺りでやめておきます。続きは、本書を読んで、ご自分でお確かめください。

「自分らしく」で行きましょう

さて、冒頭でも申し上げた通り、本書は成功のレシピではありません。起業は、この通りにやったからと言って、成功するものではないです。っていうか、この通りにやっても十中八九失敗します。はい。

ただ、本書が役に立たないのかというと、そういうわけでもありません。この本に書いてあることを、しっかりと理解し、自分なりに解釈していけば、もともとは「”百” 中 ”九十九” 失敗する=1%の成功率」だったものが、「十中八九失敗する=10-20%の成功率」になるかもしれないのです。

大事なのは「自分の信じる道を、ちゃんと歩くこと」ですし、「社会なり、クライアントなり、コンシューマーなりに、どういう価値貢献をするかを決めて、それを貫くこと」です。他人は他人です。自分らしくやりましょう。

起業なんて、別にしなくたっていい

あと、声を大にして言いたいのが「起業なんて、しなくていいんだよ」ということです。これ、まぢです。だって、十中八九失敗するんだよ。ほんとに。

企業の「5年 生存率」は15%とかって言われますね。まぁ、親会社の都合でなくなる子会社とか、どこかに買収されたものも含まれてるだろうと思いますけど、ざっくり言えば、今年(2017年)できた会社の8割は、5年後の2022年には存在しないわけですよ。(本書でも「はじめに」の冒頭で、著者は(少なくとも学生ベンチャーに関しては)「学生での起業はやめておけ」とアドバイスする、と言っています。)

「世の中にもっと『起業する人』を増やしたい!」という話は昔からよく聞きます。そうおっしゃる人の気持ちというか、意図しておられるのであろうことは、なんとなく分からなくもないんですが、僕は、全く同意できません。理由は大きく二つ。

ひとつめは、社会全体のバランスの話です。ちゃんとサラリーマンをやってくれる人がいないと、「会社」が成立しないんです。全員が起業したら、従業員がいなくなるんですよ。それ、大丈夫?ってなります。人が採用できないと、事業拡大も難しいです。起業をキャリアの選択肢として挙げるくらい優秀な人が、サラリーマン(プロフェッショナルなサラリーマン)としてその才能をいかんなく発揮するのが、人材の適正配置という観点で ”最適化” された状態だと思うんです。ちなみに、僕は経営には向いてねぇなぁ、と常々思ってます。3人で創業してほんとうに良かった。僕が「経営者」としての責任を一手に引き受けるなんてありえないです。僕みたいなタイプは、まさに「プロフェッショナルな雇われ人」として価値提供をするべきだと思うのです。その方が、僕個人の幸せという意味でも、会社組織ひいては社会全体の効用最大化という意味でも、マッチベターな選択なのではないかと思うんですよね。(ま、実務的な話をすれば、ちゃんとプロフェッショナルとして価値を出しさえすれば、その立場・役職が、共同経営者なのか従業員なのかはどっちでもいいんですけどもね。)

ふたつめは、個々人の向き不向きのお話です。会社を作るのは簡単です。2-30万円用意すれば、サクッと株式会社を作れます。しかし、先ほども述べた通り、5年で8割いなくなる世界です。起業後は、大変なことが山ほどあります、というか、大変なことしかありません。ですから、起業前に「やめとけ」「筋が悪い」「絶対無理だ」「夢ばかり見てんじゃねぇよ」などと言われても、へこたれずに勝手にやっちゃうような人しか、経営していけません。そんな世界に踏み込むことを、他人に安易に勧めるべきではないと思うのです。いや、むしろ、積極的に否定しておく方がいいとさえ思う次第です。(無責任に、若者に起業を勧める人たちって、いったい何を考えてるんですかね?って、僕は思ってます。)

「どんなに否定されても、やる!」という人は希望を持って進もう

そんなわけで、まったく起業をお勧めしない僕なのですが、「それでもやる」という方もいるでしょう。素晴らしいことです。以降は、そんな方へのメッセージです。

なにとぞ、リスク管理だけは忘れないでください。あと、挫けないでください。そうすれば、無数にあるチャンスのどれかに手が届くかもしれません。

まずは、あなたのビジョンを決めましょう。そして、そのビジョンを共有できる3人の仲間でチームを組みましょう。それがスタートです。

無事、仲間を集めてスタートを切った暁には、(あなたの事業がモノづくりベンチャーではなくても)本書と(あなたの事業がITベンチャーではなくても)リーンスタートアップを左右に携え、次の引用句を声高に唱えながら邁進してください。あなたとあなたの事業に、成功が訪れますことを、心よりお祈り申し上げます。

この道を行けばどうなるものか 危ぶむなかれ 危ぶめば道はなし
踏み出せばその一足が道となり その一足が道となる 迷わず行けよ
行けばわかるさ
byアントニオ猪木 ※引用元には諸説あり

ミライを変えるモノづくりベンチャーのはじめ方
ミライを変えるモノづくりベンチャーのはじめ方

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